114「相談(報連相の相)」
「前から言っておった⋯⋯『戦乙女』たちのレベルアップの件じゃ」
「ん? ああ⋯⋯。え? でもオメガが目立ちすぎたから一旦そっちの活動は止めるんじゃ⋯⋯」
そう。それで俺は『結城タケル』の探索活動を始めたんだが⋯⋯。
「いや何、別に配信しなければいいだけの話じゃし。それに目的はあくまで『戦乙女』のレベルアップだけじゃからの」
「わかりました。いいですよ」
「うむ、頼む。ああ⋯⋯ところでお主『覚醒ポーション』はあといくつあるかのぉ?」
「何⋯⋯だと?」
ざわ⋯⋯。
「ど、どうして、櫻子ちゃんの口からその質問が出るのかな? まさかまさかとは思うけど、亜由美さんたちに使うつもりなのかな?」
「うむ。そのほうが強くなるのに手っ取り早いじゃろ!」
「いやいやいやいや! 何言ってるのよ!? 覚醒ポーションだよ! あの危ない⋯⋯!」
「すでにクラン仲間に使ったお前からそのようなことを言われるとはのぉ〜」
「い、いや、あれはほら、なんかあったら俺の魔法で⋯⋯というのがあったから」
「だから言っておるのじゃ。お前ならどうにかできるのじゃろ?」
「⋯⋯ま、まぁ、たぶん」
「ならば問題ないじゃろ」
「でも、それはあくまで必要に迫られたら⋯⋯ていう、一応大義名分があって⋯⋯」
「いや、お主⋯⋯そのクラン仲間には私欲で使ったじゃろ?」
「うっ?! ま、まぁ⋯⋯」
いや、そうですけどぉ〜。
「ど、どうして、そんなことを突然? 櫻子ちゃん的に何か切羽詰まっている話でもあるの?」
「⋯⋯」
お?
「⋯⋯不確定情報ではあるが、この先、何か大きな陰謀が動くという話があっての」
「大きな⋯⋯陰謀?」
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「ワシが独自に持つネットワークの情報じゃが⋯⋯あの新宿御苑ダンジョンで出現した『喋る魔物』は意図的に仕組まれたものということ⋯⋯」
「え?」
「そして、それを画策している者がもしかすると直近で動きを見せるかもしれない⋯⋯という情報があるのじゃ」
「⋯⋯」
おしゃべり魔物を意図的に新宿御苑ダンジョンに出現させた黒幕⋯⋯といったところか。
「さっきも言ったように、新宿御苑ダンジョンで喋る魔物の出没例は今回が初めてじゃ。もちろん、喋る魔物の生態は不明のことも多いからたまたまということもあるかもしれんが、しかし、何やらきな臭いのを感じることも⋯⋯また事実」
「⋯⋯なるほど」
ま、たしかにそう思うのも無理ないな。
「これはワシの憶測じゃが⋯⋯この動きは日本が豊富に持つ現代の代替エネルギー資源『魔石』を狙ったテロなんじゃないかと思っておる」
「⋯⋯マジっすか」
いやいや、だいぶ話が大事になってきてますしおすし。
「そんなわけで、一応『対処手段』を準備したほうがいいと思ってな」
「⋯⋯それが覚醒ポーションを利用する話になるわけね」
「そうじゃ。覚醒ポーションは異世界では、最大10倍とはいえ単なる身体能力アップという効果しかなく、その割に副作用は重いものもあるということで採算が合わないと考える奴がほとんどじゃったから使う奴などは稀じゃったが、しかし、現代ではその副作用が『スキル付与される』かもしれないという発見があった。まだ確定ではないものの、その可能性に賭けてでも試す価値はあるし、それほどやるくらいには脅威が迫っているとワシは思っておる」
「⋯⋯その脅威って、そこまで迫っているものなんだ」
「まーの。まーでも考え方次第では、これをきっかけにもしかしたら強力なスキルを手に入れる探索者が増えれば、日本のこれまでの弱点であった『優秀な探索者不足』の解消につながるかもしれん!」
「おお!」
「つまり⋯⋯未来は明るいということじゃ!」
と、櫻子ちゃんが「フンス!」と言わんばかりに無い胸を張る。
え? 何? このかわいいのじゃロリ?
こんなかわいい子にお願いされたら頑張って叶えたいと思うのはやぶさかではない。むしろ、叶えてあげたい。しかし、
「⋯⋯ごめん。でも、覚醒ポーションは残り3つしかないんだ。だから、それを『戦乙女』に使って良い結果を得られたとしても⋯⋯でもそれ以上は無いから。正直、他の探索者たちを強化するっていう櫻子ちゃんの計画は難しいかなって⋯⋯」
「ふふん、それな! しかーし! ワシに考えがあ〜る⋯⋯のじゃ!」
ドーン!⋯⋯という効果音が聞こえたかと錯覚するほどの勢いで櫻子ちゃんが俺に指を差す。
「そのお前の持つ覚醒ポーション⋯⋯これをワシは量産しようと考えておる!」
「えっ!? 覚醒ポーションの⋯⋯量産っっ!!!!」
「名付けて⋯⋯『覚醒ポーション量産計画』!」
「おお!」
何のひねりも無くて草ぁ⋯⋯。
「覚醒ポーションを量産⋯⋯そ、そんなの本当にできるのか?!」
「⋯⋯可能性はある! が、ワシは専門家ではないのでそいつに直接聞いてみないことには実現可能かはわからん」
「それって⋯⋯つまり櫻子ちゃんの『机上の空論』てことでは?」
「まぁの。じゃが、その協力者なら実現できる可能性はかなり高いと思うぞ?」
「へぇ? どうしてそこまで言い切れるの?」
「なぜなら、現代で今使われている『体力回復ポーション』や『魔力回復ポーション』その他ポーション類のすべては、この協力者がワシが与えた異世界産のポーションを解析して量産化させたんじゃからな」
「なっ?!」
マジぽーん!
「ということで善は急げじゃ! 早速そいつに連絡して確認するぞ!」
「ちょっ⋯⋯?!」
と、意気揚々にテンション高めの櫻子ちゃんがポチッとその協力者に電話をかけた。いやいや、この行動力モンスター⋯⋯いや、のじゃロリめ! コミュ障の俺にはそのスピード感無いから櫻子ちゃんのこのアクティブさにはいつも感心させられる。
しかし、誰なんだろ?⋯⋯協力者って?
「⋯⋯もしもしワシじゃ! 今大丈夫かの? おお、そうか⋯⋯!」
どうやら電話の相手が出たようだ。今話せるらしい。ということは、すぐにでも『覚醒ポーションの量産化』が可能かどうかの確認ができそうだ。
「ん? うむ⋯⋯うむ⋯⋯⋯⋯何?」
ん? なんだ?
「うむ、わかっ⋯⋯お、おい! おい!」
え? 今のってなんか⋯⋯相手が櫻子ちゃんの返事を聞かずに電話を切ったように見えたんだけど?
え? 櫻子ちゃんってギルマスだよ? 国内最強クラスの探索者でもあるんだよ? その櫻子ちゃんの返事を途中でブッチする相手って何者よっ?!
「あ、あれ? 櫻子ちゃん? 覚醒ポーションの量産化の確認するつもりじゃなかったの?」
「うむ、それなんじゃが⋯⋯」
「?」
「そいつが『今からこっちに向かう!』といって一方的に電話を切られた⋯⋯」
「ええっ?! ギルマスの櫻子ちゃんにそんなことができるって⋯⋯その協力者、マジ何者っ?!
俺が必死の形相で聞くと、
「ふふ、なるほど。そうか⋯⋯そうじゃったな」
「え?」
な、なんだ?
「その⋯⋯な?『協力者』て奴⋯⋯な?」
「?」
「⋯⋯お主も知っておる奴じゃぞ?」
「え?」
俺も⋯⋯知っている人?
櫻子ちゃんがニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。
え? 誰のことを言って⋯⋯、
バァァァァンっ!!!!
すると、突然部屋のドアが勢いよく開けられると、
「頼もうぉぉ!!!!」
そこから快活な挨拶をしながらズンズンと中に入ってきたのは、
「やぁやぁ! 久しぶり、櫻子!」
「⋯⋯来たな(ニヤリ)」
「えっ?! えっ!?」
「久しぶり!⋯⋯⋯⋯じゃなかった。昨日ぶりだね、結城タケル君!」
「き、ききき、如月さんっ!!!!」
雨宮バリューテクノロジーの開発室室長『如月 柑奈』さんだった。