112「報告(報連相の報)」
「お主⋯⋯なんで『結城タケル』でもやらかしておるのじゃ?」
俺は今、ギルドマスター部屋で櫻子たんの目の前で土下座していた。
「いや、だって、別に魔石を換金するだけのカンタンなお仕事って聞いて⋯⋯」
「やかましい」
ゴチン!
櫻子たんが、さもエルフの長老が持ってそうな杖で俺の頭を殴る。⋯⋯あ、櫻子たんマジでエルフの長老だったわ。
「痛っ!」
「はぁぁぁ⋯⋯、フツーダンジョンデビューしたばかりの超ド新人がいきなり中層階層ボスの魔石を換金に来たら明らかに怪しいじゃろが!」
「え? 中層くらいならワンチャン問題ないと思ったんだけど⋯⋯?」
ゴチン!
「痛っ! 痛いって、櫻子たん!」
「そのつもりで殴っておるのじゃ。痛くて当然じゃ。それよりも、お主もう少し常識を学べ!」
「⋯⋯ぐぬぬ」
「いや、ぐぬぬじゃなくて。はぁ⋯⋯実際受付嬢の子も驚いて目を丸くしておったじゃろが!」
「⋯⋯うっ」
た、たしかに。
「はぁぁぁ⋯⋯まーよい。ワシがすぐに気づいたから特に大きな騒ぎになることもないじゃろ」
「ん? それってフラグぅ⋯⋯」
「やめい!」
ゴチン!
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「それにしても『結城タケル』だと初めてのダンジョン探索じゃというのに、上層階層ボスを倒してよく友人に怪しまれんかったのう?」
俺は櫻子たんに今日のクランの活動内容を一通り話した。
「いや、そこはほら⋯⋯俺、ごまかすのうまいから!」
「⋯⋯(ジー)」
「な、なによ?! そんなジト目で⋯⋯」
「⋯⋯本当にごまかせていたのか?」
「も、もちろん! だって怪しまれないようレベルや会得スキルをいろいろ考えてステータス偽装したし! 実際、そのステータス見せても二人とも特に怪しんでいなかったし!」
「⋯⋯むぅぅ」
「本当だって!?」
「わかった。とりあえずは信じてやろう。しかし、お主が設定した『レベル7』『スキル:双剣』くらいでは、いくら二人がかりとはいえ、身体狂化したゴブリンナイトを倒すというのは怪しまれてもおかしくないと思うがのぅ⋯⋯?」
「あ、それは大丈夫! だって、『覚醒ポーションを飲んで身体能力が4倍になった』てのも話に盛り込んだから! あと、佐川⋯⋯あ、えーと、クラン仲間の一人に覚醒ポーション飲ませて強くさせたから! あ、そういや聞いてよ、櫻子たん! 現代だと覚醒ポーションを飲ませて発現する『副作用』がさぁ、スキルとして付与されるんだ⋯⋯sて、あれ? 櫻子たん?」
「⋯⋯お主、何をやってる?」
「え?」
おっとぉ⋯⋯過去一に近いレベルで櫻子たんが『おこ』でござる。
「え、えーと⋯⋯頑張ってゴブリンナイトを倒したっていう話⋯⋯」
「そこじゃない!⋯⋯お主、『覚醒ポーション』といったか? それはもしかしなくとも、異世界産アイテムの⋯⋯あの覚醒ポーションのことじゃな?」
「⋯⋯は、はい」
「な〜〜にをやっておるかぁぁ、このバカチンがぁぁぁ!!!!」
「ぐほぉぉぉ!!!!」
櫻子たんが『スキル:空間転移』を使って、以前のように俺の懐に一瞬で出現すると鳩尾に掌底を放った。見た目デジャブだが、しかし威力は以前の三割増しでした(当社比)。
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「まさか⋯⋯あの『覚醒ポーション』をお主が持っておるとは⋯⋯。ていうか、しかも、それを使うとかお主何を考えておるのじゃ⋯⋯!」
「ごめんなさい」
「はああ⋯⋯」
俺は正座プラス膝の上に20キロくらいはありそうなブロックを乗せられていた。いや、どっから持ってきた、それ!?
などと、セルフツッコミをしていると、
「ん、待てよ?」
「?」
なんだ? 櫻子たんの様子が⋯⋯。
「お主、そういえばさっき⋯⋯覚醒ポーションを使った時の話で⋯⋯『現代では副作用がスキルに付与される』とか言ってたな?」
「ああ」
「詳しく申せ」
「え、えーと⋯⋯」
ということで、俺は詳細を説明。すると、
「むぅぅ⋯⋯それが本当なら、覚醒ポーションも使いようではあるのぅ」
お? 流れ変わったな。
ここだ(クワッ!)。
「で、でしょぉぉ!! だ、だって、デメリットでしかなかった覚醒ポーションの副作用がスキルとして付与されたんだから!」
「うむ。じゃが、まだそれが確証に至るほどのデータはないからのぉ。それに今回のケースはたまたまその程度の副作用じゃからよかったものの、もっとひどい副作用があるはずじゃからのぉ。そこが難しいところじゃ⋯⋯」
「まーそれはそうなんだけど⋯⋯、でも、見方を変えれば『ひどい副作用ほど強力なスキルが身に付く』とも言えるし、強力なスキルが欲しいって思う探索者ならそっちの可能性にベットするんじゃないかなぁ」
「ふむ。なるほど⋯⋯たしかにそうじゃな」
「でしょ〜?」
当初、櫻子はタケルが覚醒ポーションを使用したことを叱ったが、『現代だと副作用がスキルとなってスタータスに付与される』という副産物のような効果を聞いて、段々と『できれば利用したいな。ぐへへ⋯⋯』という思考に傾き始める。
2人のマッドサイエンティストが誕生した瞬間である。
「それに一応、ある程度の副作用なら俺の魔法で治せると思うよ。⋯⋯試したことないけど」
「む? それはもしかして『闇属性の魔法』か?」
「ああ。一応『特級』だから、だいたいの精神汚染系の症状はリセットできると思うよ。⋯⋯試したことないけど」
「なるほど。じゃが『身体的変化の副作用』はダメじゃろ?」
「う〜ん、どうだろ? 一応、治癒関係の光属性魔法は『神級』だから、ワンチャンいけるかも?⋯⋯試したことないけど」
「ずいぶん曖昧じゃのう⋯⋯」
「しょうがないじゃん。覚醒ポーションの副作用でどうにかなった奴なんて異世界では周りにいなかったもの」
「まー普通は副作用が怖くて使わんからのぉ。⋯⋯にしても、お主、闇属性が『特級』、光属性においては『神級』とは⋯⋯なかなかにやりおるのぅ」
「いや〜、それほどでもあるかな〜」
(⋯⋯じゃから、やらかすのか。なるほど)
「ん? なんか言った?」
「い〜や⋯⋯何でもないのじゃ」