111「櫻子たんからの呼び出し」
二人のラブコメの波動を一通り受けた後、
「コホン⋯⋯それで、この『身体狂化』のスキルスクロールはどうしますか?」
「俺は別にいらないかな〜」
「私も別にいらないですね。今持っている自分のスキルとの相性がいいので」
「え? マジ? じゃあ俺が使っていい?」
佐川がビシッといきおいよく挙手をしながら立候補した。
「え? 別にいいですけど⋯⋯でも、この『身体狂化』は、佐川の『おネエ化バーサクモード』に近いものだし、なんなら『おネエ化バーサクモード』のスキルのほうが性能がいいからこのスキルを取っても意味ないんと思うわよ」
「でも、スキルは多く持っていた方がいいんじゃないのか? ほら、あの『スキルマニア』の異名を持つ『ちょっちゅね具志堅』とかいっぱいスキル所持してるって話じゃん」
「ちょ⋯⋯ああ、『カルロス具志堅』さんのことですか。あの人はまた特殊でしょ?!」
「いや、でも実際ちょっちゅね具志堅って多彩なスキルを自在に操って強いじゃねーか」
「まあそれはそうだけど⋯⋯。でも、う〜ん、どうだろう。私としてはいっぱいスキルを持つより自分の身体能力や特性との『相性』のほうを重視するからな〜⋯⋯こればかりは個人によるかもね」
「うっし! なら俺は『二代目スキルマニア』の道を目指すぜ!」
「え⋯⋯!? そ、それは、やめといたほうが⋯⋯」
「? なんでだよ?」
「いや、だって、あのちょっちゅね⋯⋯カルロス具志堅さんって、ちょっと破天荒というか、変態というか⋯⋯」
「おい、変態ってひでーな! 俺はちょっちゅね具志堅さんのファンなんだぞ!」
「え! そうなの!?」
「おう! すげーだろ!」
「あ、あんた、柑奈さんのファンだったり、カルロス具志堅さんのファンだったり⋯⋯節操ないわね」
「え? 別にフツーだろ」
「はぁぁ⋯⋯」
何やら理恵たんがとても残念な表情で大きなため息を吐いたあと「勝手にしたら?」と佐川に言葉を掛けると「おう、そうさせてもらうぜ! おっしゃあ!」と佐川は理恵たんのドン引き具合など物ともせず、ゴブリンナイトの『スキル:身体狂化』を取得した。
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「さて⋯⋯と、もう18時になりますね⋯⋯。今日はこれで解散にしませんか? 二人とも戦闘ばっかで疲れたでしょう?」
「まーそうですね」
「おう!」
ということで、今日はこれで解散となった。
ちなみに、当初活動は毎日という話だったが体を休める日を設けようということとなり、結果、火・木を休みとし、それ以外の平日『月・水・金』の週3日を活動日とした。
「じゃあ、今度は金曜日に! お疲れ様でした」
「おつかれ〜」
「おう! また明日学校でな〜」
俺たちは新宿御苑ダンジョンからギルドへと戻り、魔石やドロップアイテムを換金したあと、各々家路へと向かう⋯⋯ところだったが、
「あ、そうだ! もう少し時間もあるからオメガの時に取ったアイテムをいくつか換金してみよう!」
ということで、俺は人気のないところへ行き、ストレージからオメガの時に倒したゴブリンナイトの魔石と、中層階層ボス『レッドオーク』の魔石を取り出すと受付へと向かった。
「あの⋯⋯すいません」
「はい? なんでしょう? あら? さっきの⋯⋯えーと⋯⋯『英雄旅団』さんの⋯⋯」
「あ、はい。そうです。すみません、まだドロップアイテムが残っていまして⋯⋯売却をしたいのですが⋯⋯大丈夫ですか?」
「もちろん。別にアイテムや魔石の売却が一日一回とかそんなことはないですから。あれば何回でも持ってきても構いませんよ⋯⋯クスッ」
そう言って、受付のきれいなお姉さんがクスリと笑いながら応えてくれた。うわぁ、すげー良いお姉さんだなぁ〜。
「うふふ⋯⋯高校生なのかな?」
「あ、は、はい!」
「もしかして、今日ダンジョンデビューしたの?」
「は、はい、そうです!」
「そっかー、高校生で探索者になれるなんてすごいねー」
「そ、それほどでも⋯⋯」
うわぁ、なんかいいなぁ⋯⋯きれいな年上のお姉さんとのこういう会話。
さっきは佐川と理恵たんの『ラブコメの波動』にやられっぱなしだったから、これはもしやご褒美なのでは? 神様、ありがとう! あ、でも、グシャビチョ女神おめーは違うから。
しかし、そんなきれいなお姉さんとのやり取りは⋯⋯長くは続かなかった。
「それじゃ、換金したいドロップアイテム出して」
「は、ははは、はいぃぃぃ!!!!」
ゴロゴロン⋯⋯。
俺は少し慌てながらゴブリンナイトとレッドオークの魔石を出した。
「えーと⋯⋯あ、これはゴブリンナイトの魔石ね〜。え? すごいわ! ダンジョンデビューでいきなり上層階層ボスのゴブリンナイトを倒したの?!」
「え、あ、いや⋯⋯仲間と一緒にですが⋯⋯はい。えへへへ⋯⋯」
「それでもすごいわよ〜! デビュー戦で上層階層ボスを倒すだなんて! それで次のが⋯⋯これも魔石ね。え? これゴブリンナイトの魔石より大きい⋯⋯⋯⋯え?」
「えへへへ⋯⋯え?」
「こ、こここ、これってまさか⋯⋯! いや間違いない! この魔石って⋯⋯中層階層ボス『レッドオーク』の魔石じゃないっっ!!!!」
「え? あ、そうですね。いやぁ、これも仲間と一緒になんとか⋯⋯えへへへ」
「いや『えへへへ』じゃないわよっ!? いくらなんでもダンジョンデビューのクランがいきなり初日で中層階層ボスを倒すなんて前代未聞よ!」
「⋯⋯え?」
あ、やばい⋯⋯。レッドオークの魔石は⋯⋯まずかったかも。
「い、いや、あの⋯⋯そのぅ⋯⋯このレッドオークに関してはですねぇ〜」
キリリリ⋯⋯!
その時、受付の机に置いてある電話が妙に甲高い音をけたたましく鳴らした。
「えっ!? こ、この音って⋯⋯」
「?」
お姉さんが妙に緊張した面持ちで電話を取る。
「は、はい、もしも⋯⋯っ!? あ、あの⋯⋯はい! 受付の小山内です! はい! はい! わかりました!」
電話を取ったお姉さんが受話器を置く。そして、
「え、えーと⋯⋯ギルドマスターの櫻子様がギルドマスター部屋に至急案内するように⋯⋯とのことなので、すみませんが一緒に来ていただけませんか?」
「⋯⋯」
う〜ん⋯⋯⋯⋯バレテーラ。
「お、お願いします! 私、まだ受付嬢に配属されたばかりなのでこんな⋯⋯ギルドマスターの櫻子様からの指示なんて初めてなんです! だから、だからどうか⋯⋯一緒にギルドマスター室に行ってください〜〜!!!!」
「うおっ!?」
そういうと、お姉さんが俺の手を両手でガシッと掴み、目に涙を溜めながら必死に訴えてきた。さっきまでの『きれいなお姉さん像』が、一気に『薄幸お姉さん』へとジョブチェンジする。
「も、もちろん⋯⋯です」
「ホント? ありがとぉぉぉ!!!! ささ、こっちです! 結城タケル様っ!!」
「⋯⋯はい」
ああ⋯⋯ついさっきまで『神様からのご褒美』などと言ってはしゃいでいた自分をグーで殴りたい。