109「『覚醒《トランス》ポーション』(2)」
「ところで、その⋯⋯佐川のこの『おネエキャラ』って何なんですか? もしかして、その『覚醒ポーション』が関係しているのでしょうか?」
と、理恵たんからいよいよ『さがえもんおネエ化キャラ』の全容に迫る質問が飛んできたので、
「うん、そうだよ」
俺、即答。
「ええっ!? そうなの!」
「ええっ!? そうなの!」
そして、まだおネエキャラ然だった佐川と理恵たんがハモる。
「櫻子た⋯⋯様がいうには、『覚醒ポーション』の効果は身体能力を劇的に引き上げるという強烈な効果を持つポーションだから、副作用が出るかどうか、またどういった副作用があるかなどは、個人差があるものの致し方ないだろう⋯⋯て」
と、俺は異世界で教えてもらった覚醒ポーションのメリットとデメリットの話をした。それと、
「あと、これは今の佐川のおネエキャラとステータスを見てわかったことだけど、どうやら覚醒ポーションを飲んで副作用が出ると、その副作用の内容に関する『スキルの技』が付与される⋯⋯ぽい」
と佐川のステータスを見ながらそれも説明に付け加えた。
「た、たしかに⋯⋯。この『おネエ化バーサクモード』て『技』は、覚醒ポーションを飲んで今の状態になってからだもの」
そう言いながら、佐川も俺の説明に納得している様子。また、
「ちょっと待ってください。じゃあタケル君は? どういった副作用があったんですか?」
「俺? 俺は副作用無かったよ」
「ええ! 副作用が⋯⋯無かった?!」
「うん。だから、ほら⋯⋯ステータスに『技』が無いでしょ?」
「! た、たしかに⋯⋯。ということは、やはり、この覚醒ポーションを飲んで『副作用が発現した者』だけに限り、副作用に関連する『技』が付与されるというのは⋯⋯正しい?」
「いや、まだはっきりはしていないけどね。でも、佐川のおネエ化とスキル技を見たら、その可能性は高いと⋯⋯個人的には思うかな」
「! そう⋯⋯ですね。私もその可能性は高いと⋯⋯思います」
「⋯⋯」
理恵たんが俺の言葉を聞きながら、何かを考えている。⋯⋯ちょっと嫌な予感がするね。と思った瞬間——、
「それにしても私的に一番驚きなのは、身体能力の大幅な向上よりも覚醒ポーションの副作用の効果⋯⋯つまり、副作用が発現したらそれに関する『技』が付与されるというものです! これはかなり凄いことだと思いますっ!!」
と、理恵たんが半ば興奮気味に早口で捲し立ててきた。
「た、たしかに⋯⋯。こんなの聞いたことないし、それにこれがあればスキルがあっても『技』がまだ身についていない探索者なら喉から手が出るほど欲しいものよ。その価値は計り知れないわ⋯⋯!」
佐川もも理恵たんの言葉に便乗する。
実際、俺も現代での覚醒ポーションの仕様が変わったことで、異世界で恐れられてた『副作用』が現代では『大いなる希望、または可能性』となっていたことだ。
異世界では、ただ身体能力が向上するだけだったのに、現代では『副作用に関するスキルの技』が付与されるなんて⋯⋯。
むしろ現代では、『副作用』を期待して積極的に飲む人が多くなるさえある⋯⋯。そんなことを考えていると、
「あ、あの、タケル君!」
「! 理恵⋯⋯たん?」
「そ、その! 覚醒ポーションって⋯⋯まだあったりしますか?」
ほ〜ら、やっぱり。
まーでも理恵たんが欲しがるのも無理ないよな、だって佐川の変化を目の前で見たんだから。⋯⋯すると、その時だった。
「おい、雨宮! やめとけっ!?」
「え?」
あれ? 佐川が⋯⋯止めた。
「これ⋯⋯『副作用』の効果はとんでもないと思うぞ⋯⋯悪い意味で」
「っ!? ど、どういうことよ⋯⋯」
お? 佐川の『おネエ化』の副作用が消えたようだ。
「俺はたまたま、おネエ化程度で済んだが、一歩間違ったら俺の人格自体が変わる可能性だってあった。それに持続時間だって個人差はかなりあると思う。一応俺はもう元に戻ったようだが⋯⋯でも、これは人によって何時間も、何十時間も、もしかしたら何日も、あるいは一生ずっと⋯⋯だってあるかもしれないんだぞ!」
「⋯⋯!」
そう。佐川のいう通りだ。俺もこの『副作用』の一番怖い点は『持続時間』だと思う。
佐川は20分程度で元に戻ったようだが、次に飲んだ奴の副作用がどれだけ続くかなんてわからないしね。それに、その『副作用の内容』⋯⋯つまり『どうなってしまうか』という面も考えると、おいそれと迂闊に手を出す代物ではない。
え? それをわかっていながらどうして佐川に使ったんだって?
そ、それは、あれですよ⋯⋯ノリ⋯⋯みたいな?
いやまー最悪、『人格が崩壊する』とか『元に戻らない』とかが発生したら、ちゃんと『元に戻す方法』はあるから。いよいよとなったら⋯⋯ね。
ただ、今回『現代では副作用が起きると、それに関連するスキル技が付与される』とわかったので、もしかすると、今後現代で使用して重い副作用が出たとしても、人によっては『元に戻す方法』を拒否するかもしれない。
だって、このロジックで行けば『重い副作用』ほど『強力なスキル技が身に付く』可能性があるのだから。
そして、そのことに理恵たんはすでに気づいてて、その上でのさっきの発言だと思われる。⋯⋯なので、
「えーと⋯⋯理恵たん」
「は、はい!」
「実は、この『覚醒ポーション』は今1つしかないんだ。だから、今は無理かな⋯⋯」
「! あ、そ、そう⋯⋯なんですね⋯⋯」
理恵たんが俺の言葉にハッとして下を俯く。本当はまだ持っているが俺がそれらしい理由をつけて断ったと感じたからだろう。実際そうなのだが、俺としても理恵たんに気づいてもらえるよう、少しワザとらしく言ったというのもある。
ていうか、理恵たんはおそらく俺が『ワザとらしく言った』ということさえ気づいていると思うし、それだけ俺が『理恵たんに覚醒ポーションを飲ませたくない』という想いもちゃんと受け止めてくれたと思う。
シーン。
少し、気まずい沈黙が流れる⋯⋯のはマズイので、
「理恵たん!」
「は、はいっ!?」
「あれって⋯⋯もしかしてゴブリンナイトを倒したドロップアイテム?」
と、俺的にさっきからずっと気になっていたゴブリンナイトのドロップアイテムの話を振ってみた。
「あ、はい、そうです!」
「俺、上層階層ボスのドロップなんて初めてなので⋯⋯いろいろ教えてもらっていい?」
「は、はい! よろこんで!」
理恵たんから、某有名居酒屋チェーン店ばりの笑顔と元気な声が飛んだ。