108「『覚醒《トランス》ポーション』(1)」
「と、とりあえず、佐川⋯⋯お前のステータスを見せてもらっていいか?」
「いいわよ」
そう言って、佐川がステータスを見せてくれた。
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佐川 卓
レベル:13
スキル:拳闘武者
技:百裂拳/おネエ化バーサクモード
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お? 佐川のレベルが2つも上がってる。ゴブリンナイトを倒したからか。あと⋯⋯、
「あら? なにこれ?『おネエ化バーサクモード』?」
なんと! どうやら、覚醒ポーションを飲んで発現した『副作用』は、現代では『スキルの技』に関連され付与されていた。
ということは、副作用が発生したとしても現代では『スキルの技』となるから副作用が出る人はそれはそれでメリットがあるってことか。
へ〜、それなら覚醒ポーションはあと数本あるから、誰かに使ってみるのはありだな〜。
などと、覚醒ポーションの可能性にいろいろ感心していると、
「な、なんですか、これ! 今の⋯⋯ゴブリンナイトを倒したきっかけで『技』が付与されたということですか!? タケル君、どうなんですか!」
「ギ、ギブ、ギブ⋯⋯」
理恵たんがおもむろに俺の胸ぐらを掴み、ガックンガックンさせながらすごい勢いで説明を求めてきた。く、苦しい⋯⋯。
「ゴホゴホ⋯⋯。え、えーと⋯⋯、これから俺が話す内容は『口外厳禁』なものなので、そのつもりで聞いてくださいね」
「「っ?!」」
俺は、表情と姿勢を正していかにも覚悟を決めた態度で二人にそう告げる。すると、二人も俺の空気が変わったのを察し姿勢を正す。
「実は、これなんだけど⋯⋯」
そうして、俺は懐から『覚醒ポーション』のビンを取り出した。
「これは?」
「『覚醒ポーション』⋯⋯というポーションの一種で、これは身体能力の大幅な向上をもたらすポーションだ」
「なっ!? 身体能力の⋯⋯!」
「えっ?! そんなポーションが⋯⋯!?」
二人が予想通りのリアクションをする。しかし、俺は意に介さず淡々と説明を続ける。
「うん。ちなみに、この覚醒ポーションの具体的な効果は⋯⋯身体能力を最低でも3倍、最大だと10倍もの向上をもたらす」
「「じゅ、10倍ぃぃぃ!!!!」」
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「身体能力を向上させるポーションなんて、そんなの⋯⋯そんなの聞くのも見るのも初めてよ! 何なのよ!?」
「わ、私も⋯⋯! こんなポーションがあるだなんて⋯⋯初めて知りました」
いまだ副作用のおネエモードが抜けていない佐川と理恵たんが覚醒ポーションの話を聞いてそんな感想を漏らす。デスヨネー。だって、この世界に無いものだもの。
そして、そんな見たことも聞いたこともない凄い効果のポーションの話を聞けば、二人がその後『出自』を聞いてくるのは自明の理。
というわけで、俺はここで『櫻子たん』のカードを切った。
「うん、だよね。だって、これ⋯⋯ギルドマスターの櫻子様からいただいたものだから」
「え! 櫻子様から?!」
「ど、どういうことですか!」
うんうん。二人が身を乗り出して話を聞いてきたね。
「実は⋯⋯」
そして、俺は二人に「このポーションは『F級探索者登録証授与式』のあと、櫻子たんから直接受け取った」という話をした。すると、
「ど、どうして、櫻子様がタケル君に、わざわざそんなものを⋯⋯?」
「そうよ! どうして櫻子様がタケルにだけこんなすごいアイテムを渡すのよ!?」
「さあ? ただの気まぐれだったのか、何か意図があったのか⋯⋯俺にもわからないよ」
「え?」
「え?」
二人が俺の言葉に困惑の表情を浮かべる中、俺は追撃の手を緩めず、さらにブラフをかます。
「ただ、俺も実際にそのポーションを飲んで身体能力が向上したから(ブラフ発動)」
「えっ?! タケルもそれ実際に飲んだの!?」
「なるほど。だからタケル君はレベルが低い割に身体能力の高さとスキルの熟練度が高いんですね」
「え? あ、うん⋯⋯そう! その通り!」
理恵たんは俺がこの覚醒ポーションを飲んだという話をすると納得した表情を浮かべた。実際、それは理恵たんのただ勘違いではあるが、しかし、俺はこれを「チャンス!」と捉え、全力で理恵たんに乗っかった。
「で、タケル君は⋯⋯身体能力は何倍くらい向上したんですか?」
「え⋯⋯? あ、ああ⋯⋯」
やばい。どうしよ⋯⋯! どれくらいの身体能力向上なら、今後の探索活動で魔物を軽々とやっつけても違和感ないだろうか?
「よ、4倍⋯⋯くらいかな?」
「「おおー!」」
二人から感嘆の声が漏れたものの、しかし特に疑問を抱いている様子はなかった。どうやら4倍くらいで正解だったようだ。
「ところで、その⋯⋯佐川のこの『おネエキャラ』って何なんですか? もしかして、その『覚醒ポーション』が関係しているのでしょうか?」
と、理恵たんからいよいよ『さがえもんおネエ化キャラ』の全容に迫る質問が飛んできた。