107「さがえもん覚醒(いろいろ)」
——雨宮 理恵
「さ、佐川っ!?」
ついさっきまで私は、タケル君と佐川の戦いを見守っていた。現在、9階層にいて上層の階層ボスであるゴブリンナイト相手に二人は善戦していた。
正直、今の二人のレベルを考えたら『身体狂化』したゴブリンナイト相手に、ここまで戦えているのは驚嘆に値する。
しかし、さすがに善戦しているだけで、実際はゴブリンナイトに押されているのが現状だったので、私は介入しようとタイミングを伺っていた⋯⋯その時だった。
「⋯⋯佐川っ!?」
突然、佐川が頭を抱えて苦悶の表情で苦しみだした。あと、なぜだかゴブリンナイトが大きな隙となっているはずの二人に対して追撃をしてこないのも気になる。一体、あそこで何が⋯⋯。
そんな状況でもあったので、私は加勢に入るのを一旦止め様子を伺った。すると、
「ちょっ⋯⋯何してくれてんのよ、バカタケルぅ!」
突然、佐川がタケル君に怒鳴り出した。
ん? あれ?
佐川の様子が⋯⋯なにかおかしい。
さすがに心配になった私は
「お、おい、佐川⋯⋯大丈夫か?」
と、声をかけたところ、
「大丈夫よ! むしろ、なんか調子がいいくらいだわっ!!」
そう言って、私にウインクをした。
「⋯⋯え?」
いつもなら、ウインクする佐川なんて『ブン殴る』一択だが、しかし、しかし⋯⋯、
「な、なんか、かわいい⋯⋯?」
正直、むかつくどころか⋯⋯かわいいと思ってしまった。
ん? かわいい?
「はうあ!?」
そこで私はやっと⋯⋯さっきからの言いしれぬ『違和感』に気づいた。
「さ、佐川が、『おネエ化』してる⋯⋯?」
自分で言っててまったく意味がわからなかったが、ガクブルしたことに間違いはない。
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「ちょっ⋯⋯何してくれてんのよ、バカタケルぅ!」
「おおっ!? さがえもんが、勇者が生還したぁぁぁ⋯⋯て、あれ?」
おや? おやおや? なんだか違和感が⋯⋯?
「ど、どうだね、さがえもん。調子のほどは⋯⋯?」
とりあえず、俺はざっくりと様子を伺ってみた。
「え? 調子? いいわよ、すこぶる!」
「っ?! ふ、ふ〜ん⋯⋯」
あ、ああ⋯⋯なるほど。そうか、そうかぁ〜。
これ⋯⋯覚醒ポーションの『副作用』ですわぁ〜。
なんか異世界でも副作用で『おネエ化』する奴けっこういたし。
いやぁ、でも、よかった、よかった。⋯⋯もっと深刻な副作用じゃなくて。
あ、理恵たんが心配したのか佐川に声をかけてる。あ、佐川が理恵たんにウインクしながら返事返した。あれ? いつもならぶん殴られるシチュのはずなのに、理恵たんがなぜかボケーと突っ立ったままだ。
もしかして、今のやりとりで佐川の変化に気づいた⋯⋯のか?
うん、ありえるな。理恵たんならありえる。さすがだぜ、理恵たん!
などと、タケルが二人のやり取りを見ながらそんな感想を抱いていると、
「ぐ⋯⋯ぐげげ⋯⋯げぎゃ!」
ゴブリンナイトが俺の『弱目の威圧』から解放されたのか、殺気を放って襲ってきた。
俺の今の状態は『身体覚醒(極)』がONになっている状態なので双剣で切り刻もうと動こうとした⋯⋯その時、
「ちょんわー!」
佐川が『かっ◯び一斗』の名セリフとともに、襲いかかってきたゴブリンナイトに飛び出していった。
バキャーーン!
「ぐげぎゃ⋯⋯っ!?」
殺気を放ち勢いよく襲ってきたゴブリンナイトだったが、佐川の先ほどまでとは明らかに異なる太刀筋と力強さ、そしてスピードは、『スキル:身体狂化』で通常の5倍近い身体能力となっているはずのゴブリンナイトに完全に押し勝っていたのか、ゴブリンナイトの剣を簡単に破壊。
その状況にまるで理解が追いついていないゴブリンナイトが、驚愕と困惑の入り混じった声を漏らす。
「ハッハッハー! 今の私は誰にも負けないわよー!!」
そんな困惑のゴブリンナイトに、おネエ化の上『バーサクモード』も加味されたような佐川が、存在感を際立たせている深紅の籠手⋯⋯『鋼鉄の籠手』に魔力を集める。
「オラァァ、ぶっ壊れなさい!⋯⋯『百裂拳』っ!!」
佐川が雄叫びとともに『スキル:拳闘武者』の『技』をゴブリンナイトへ繰り出す。
「ぐぎっ!? ぐ、ぐぎゃ⋯⋯ぐぎゃぁぁぁあぁぁあぁああぁぁぁぁっ!!!!」
佐川の無呼吸で放つ幾百もの拳は、さっきまでかすり傷程度しか入れられなかったはずのゴブリンナイトの体を、まるで餅つきの餅のごとくボコボコと変形させるほどのダメージを負わせた。そして、
「ぐ、ぐげ⋯⋯ぐげぇぇ⋯⋯」
バシュン!
ゴブリンナイトの命が消え、目の前からその姿が消失。そして、
「や、やったわ! 私⋯⋯上層階層ボスのゴブリンナイトをやっつけたわぁぁ!!!!」
佐川が今日一番の笑顔とおネエ言葉で勝鬨を上げた。
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現在、俺たちは上層の階層ボスであるゴブリンナイトをやっつけ盛り上がっていた⋯⋯わけなどなく、
「ちょっと! これどういうことよ、タケルぅぅ!!」
「⋯⋯タケル君? 佐川のこれはどういうことですか?」
と、俺は『おネエ化バーサクモード』の佐川と理恵たんにめちゃめちゅ詰められていた。
「ていうか、戦闘中一体何があって佐川がこんなんなったんですかっ?! ちゃんと説明してください、タケル君!」
理恵たんが、いつにもましてだいぶ『おかんむり状態』だった。うわぁ⋯⋯すげ〜怒ってるぅ〜。
う〜ん、まずい。これは本当のことを言ったら、もっとブチギレられそう⋯⋯。
俺は理恵たんにマジおこされるのが嫌なので、必死になって言い訳を考える。
ていうか、そもそも素直にしゃべるとなっても『異世界産アイテム』の話をしてもいいのだろうか?
そうして悩んでいたところ、ここで再び『天啓』が降りた。
そうだ、櫻子たんを利用しよう!