106「さがえもん育成計画(人体実験ともいう)」
「さて、どうしたものか⋯⋯」
現在、俺たちは目の前のゴブリンナイトに苦戦を強いられていた。
「ぐぎゃ! ぐぎゃ! ぐぎゃあぁぁ!!!!」
2人相手にしているというのに、ゴブリンナイトのほうがむしろ押している⋯⋯そんな状況だった。
(う、うぜぇぇぇ!)
正直、俺はブチ切れ寸前だった。
(こんのクソ雑魚が⋯⋯調子乗りやがって!)
もう、いっそ『身体覚醒(極)』をONにして一撃破壊しようかな。そう思ったときだった。
(⋯⋯いや、待てよ?)
俺に圧倒的閃きが走った。
(さがえもんを強くすれば、俺がやらかしても目立たなくなるのではっ?!)
天啓。まさに天啓であった。
では、どうやって佐川を強くするか。これについては、すでに解決している。
「異世界産アイテム⋯⋯『覚醒ポーション』〜」
「うおっ!? な、なんだよ、いきなりっ!!」
あ、ついまた『未来からきた猫型ロボット』風に口走ってしまった。
まーでも問題ないだろう。「あっち産アイテム」としか言ってないし。
「⋯⋯佐川」
「なんだよ! てか、お前集中しろよ!?」
「力 が 欲 し い か ?」
「は?」
********************
「力 が 欲 し い か ?」
突然、タケルがそんなことを口にした。
怖えーよ。
いや、ていうか今戦闘中ですけど!
なんならだいぶ押されてるんですけどぉ!
「力 が 欲 し い か ?」
うわぁぁ⋯⋯また同じこと聞いてきたぁぁ!
こ、こりゃ、とりあえず、つきあわないと終わらなそうだ。てか「痛てて!」⋯⋯このゴブリンナイト、俺じゃなくスキだらけのタケルを攻撃しろよ! なんで俺だけなんだよ!?
俺はゴブリンナイトから攻撃を受けてしまうものの、なんとか致命傷を避けながらタケルの相手をする。
「力 が 欲 し い⋯⋯」
「わ、わかった、わかった! しつけーなー! 欲しい! 欲しいよ、そりゃ!」
とりあえず、俺は適当に返事をする。
しかし⋯⋯この『適当に返事』したことを俺はすぐに後悔することとなる。
「力が欲しいのなら⋯⋯くれてやろう」
「え? むぐぅぅ!?」
すると、タケルが後ろへと周り俺を羽交い締めにする。そして、
「は〜い、しっかり飲んでくださ〜い」
「ちょ⋯⋯?! お、おぶ⋯⋯!」
俺は無理矢理『緑色に光る謎の液体』を強引に飲まされた。
「ぶへあぁっ!?」
「うん、ちゃんと全部飲めたね。えらい、えらい!」
こいつは今どの視点のキャラ設定をしているのだろう? い、いや、そんなことより、
「な、なんだよ、今の⋯⋯! 何飲ませたんだっ!?」
それにしても、ゴブリンナイト攻撃してこないな? あれ? なんかこっちの様子を伺いながら止まってんな⋯⋯なんで?
********************
ということで、俺はスッと佐川の後ろに周り、羽交い締めにしたあと『身体覚醒(極)』をONに。佐川の動きを完全制御したあと、佐川に見えないよう『ストレージ』から『覚醒ポーション』を取り出し、優しく飲ませる。
すると、佐川も抵抗なく飲んでくれているようだった。えらい、えらい。
「ぶへあぁっ!?」
「うん、ちゃんと全部飲めたね。えらい、えらい」
ん? ゴブリンナイトがこっちに突っ込もうとしてきてるな。うん、ちょっと今は邪魔だな。でも、こいつ殺すわけにはいかないからな〜。ということで、俺は『身体覚醒(極)』がONになった状態でもあったので、ゴブリンナイトにだけ飛ぶよう標準を狭めた『弱目の威圧』を発動。
(⋯⋯ちょっと、そこでおとなしくしてろ!)
「ぐっ!? ぐげぇぇ⋯⋯」
ふぅ、なんとか成功したようだ。佐川にもバレていない様子。よしよし。
ちなみに『身体覚醒(極)』の通常モードでの『威圧』だと、ゴブリンナイト程度ではショック死することもあるので『弱目の威圧』が成功して本当によかった。
「な、なんだよ、今の⋯⋯。俺に何を飲ませ⋯⋯っ!?」
「お?」
佐川の体が震え出した。どうやら覚醒が始まったようだ。
よしよし、いいぞ。いや〜成功するといいな〜。
え? その『覚醒ポーション』ってヤバイ薬じゃないのかって?
説明しよう!
『覚醒ポーション』とは、身体能力が3倍から最高10倍にまで向上するというすごいアイテムなのだー。
え? 説明じゃなくて、ヤバイ薬なのかどうかが知りたいって?
さあ、どうなんだろう?
なんか聞いた話だと、たまに、たま〜〜〜に、人によっては副作用が出るかも?⋯⋯みたいな?
え? 俺は飲んだことあるのかって?
あるわけないじゃん。こんな怖いもの! 誰が飲むかっての!
あ⋯⋯間違えた。
大丈夫大丈夫。俺は飲んだことないけど佐川ならきっと大丈夫。
だって、俺は佐川を信じているから。
だから、佐川ならきっと成功する。
がんばれ〜、さがえも〜ん!