103「『英雄旅団』——新宿御苑ダンジョンへ参る!(2)」
ダンジョンに入る前——俺たちはステータスを見せあった。
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結城 タケル(ゆうき たける)
レベル:7
スキル:双剣
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雨宮 理恵
レベル:41
スキル:乙女剣聖
技:一刀両断/凛舞斬り/乱舞天昇
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佐川 卓
レベル:11
スキル:拳闘武者
技:百裂拳
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「佐川って、意外とレベルあるんだな」
俺は佐川のレベルが二桁行っているとは思っていなかったので単純に驚く。
「たりめーだろ! 俺は1年前から探索者やってんだから!」
すると、
「フン! その割には少しレベルが低いんじゃないかしら?」
と、理恵たんから辛辣な言葉が飛ぶ。
「う、ううう、うっせ! いいだろ、別に! 俺の勝手だろ!」
「私が言いたいのは、ダンジョン探索を怠けていたのは、タケル君をいじめたり、ロクでもない連中と付き合っていたからでしょ、って言いたいのよ!」
「うっ!? す、すまん」
「⋯⋯」
うんうん。姉さん女房かな? てか、もうこれ付き合ってるよね?
そんな2人とクラン組む俺って、もしかして、ドの付くMかな?
さて、そんな悲しい話は置いといて、それでもやっぱり仲間と一緒にダンジョン探索をするのは楽しいと感じる。
「それにしても、タケル君のレベル⋯⋯今日が初ダンジョンにしては高いですね。それに、すでに『双剣』のスキルを持っているだなんて⋯⋯すごいです!」
う⋯⋯。
「え、えーと⋯⋯実はこれまで池袋の探索者養成ダンジョンでレベル上げをしていたんだよね、はは。で、その時に宝箱を見つけてそこに双剣のスキルがあったんだよね。そ、それで双剣をいっぱい練習してたってわけさ! だ、だから、このくらい⋯⋯普通だよ、普通。あっはははは」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
あ、あれ? 二人がすごいジト目してる⋯⋯。やっぱ、初ダンジョンで『レベル7でスキル持ち』て違和感バリバリなのか?!
「へ、へーそうなんですね、さすがです!」
「す、すごいな、タケル。よ、よっぽど双剣の練習⋯⋯したんだな!」
「え? あ、うん! そうなんだよ! あはははは!」
よし、なんとか誤魔化せた!
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——雨宮 理恵
(い、いやいやいやいや、タケル君!「うまく誤魔化せた!」みたいな顔してるけど、全然誤魔化せてないからぁ!)
——佐川 卓
(やばい⋯⋯。こいつ俺の想像以上にわかってないぞ!? むしろ「うまく誤魔化せた!」と思っている節さえある。早いうちにこの勘違いヤローにわからせないと!)
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二人の心配をよそに、タケルは「いやぁ、チョロいチョロい」などと見当違いな自信に満ち溢れていた。
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「あ、ゴブリン」
「おらぁぁ!」
「へぇ〜、やるじゃない。佐川」
今、俺たちは3階層まで降りてきた。
「えっと、まずF級である佐川とタケル君がメインで戦うっていう形にしましょう。私は必要なときに入る『サポート役』に徹するから」
「おう!」
「わかった」
と理恵たんの指示のもと、佐川と俺で前衛のような立ち位置で戦っていた。
ちなみに、現在ダンジョン配信はしていない。というのも、俺的には「別に配信してもいいのでは?」と思ったのだが、
「い、いえ、とりあえず、今日がクランとして初ダンジョンなので初めは配信無しでいきましょう!」
「そ、そうだぜ、タケル! 人気Dストリーマーの雨宮が言っているんだ、今は素直に聞いとけって!」
と、二人が頑なに「ダンジョン配信は今はやめておこう」というようなことを言ってくるので、とりあえず俺もそれに従った。まぁ実際、佐川の言う通り、ここは経験豊富な理恵たんの言葉に従うのが吉だろう。
——昨日、理恵たんの家から戻った俺は、この日のための『ステータス偽装』を施した。
理由はもちろん、一撃パァーン防止のためだ。ということで、パッシブスキルの『身体覚醒(極)』はすでに解除した。
というのも、元々、異世界では魔物や魔族と戦う日常だったり、暗殺者に狙われるような日常だったので『身体覚醒(極)』は常に発動状態での生活を余儀なくされていたのだが、現代では日本ということもあって平和なので『身体覚醒(極)』を常時発動する必要性がなくなったのだ。
あと、ダンジョン探索にしても今のところ『身体覚醒(極)』を発動しなくても、現代に来て成長したレベルの身体能力でも十分やっていけることがわかったから⋯⋯というのもある。
ちなみに、俺のレベルは『31』。オメガとしてダンジョン探索する前、つまりデビュー前の俺は『池袋の探索者養成ダンジョン』でレベル20まで上げていたが、あの2回目の配信で『喋る魔物バロン』を倒したあと、一気に『31』まで上がった。まぁそれだけ、あのバロンは強キャラだったということだ。
というわけで、俺はこの『レベル31』をどう偽装するかに頭を悩ませていた。当然ステータスの偽装だけでなく『実際の身体能力』も落とす必要があった。
「そうでもしないと、うっかり攻撃したり動いたりして『レベル31』の身体能力がすぐにバレるだろうからなぁ〜」
そこで、俺は、
「テテテテン!⋯⋯異世界産アイテム『脱力の指輪』〜」
と、未来からやってきた猫型ロボット風に宣言しながら、強力なデバフ効果のある指輪を装着した。
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『脱力の指輪』
・装着した者のレベルを50%減少
・指輪所有者の許可なく指輪を外すことはできない
・指輪の個数分デバフ効果が発動する(最大4個(90〜93%減少))
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主に、犯罪者などを捕らえた際に『隷属の首輪』とセットで装着させる指輪だ。見ての通り、かなり強力なデバフ効果を持つアイテムで、当然『超貴重品&高級品』である。日本円に換算すると1個『10億』はくだらない代物。
そんな超高級アイテムを2個持っている俺はそれを右手にはめた。結果、現在のレベルは『31の半分の半分』⋯⋯およそ75%ダウンの『レベル7』となった。
「か、体⋯⋯重ぉぉ〜」
ついさっきまで、パッシブスキル『身体覚醒(極)』を利用していたこともあり、現在はその身体能力が著しく下がったため、体の重さや倦怠感が半端ない。
「う、ううう⋯⋯わかっていたことだけど⋯⋯こりゃキツい」
そして、深夜まで及ぶことになったものの、俺はなんとか75%減少した『身体能力』に慣れた。