101「解散後——雨宮バリューテクノロジーにて」
クランに関しての話し合いが終わったあと、俺とタケルは小五郎さんの運転で送ってもらったのだが、タケルを降ろしたあと、
「あれ? 小五郎さん? 自分の家⋯⋯そっちの道じゃないですよ?」
「はい、承知しております」
「⋯⋯え?」
「お嬢様と如月様より『これより緊急招集を開く』とのことで、佐川様にはまた戻っていただく手筈となっております」
「ああ⋯⋯はい」
うん、まぁ、予想はしてたよ。
だって、タケルの『クラン結成の話』なんて誰も予想していなかったし。
しかも、こんなタイミングで。
てっきり、オメガのDストリーマー活動をメインに動いていくと思っていたし。
「一体何がどうなってるんだ?」⋯⋯て、雨宮も如月さんもそりゃ思うよな。
だって突然のことだもの。
そんなこんなで俺は雨宮バリューテクノロジーにとんぼ返りとなった。
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「しかし、まさか⋯⋯こんなことになるとはね」
「うん、本当にいきなりだったんだもん。ビックリしたわ!」
そんなこんなで、雨宮の家に戻ってきた俺。中に入ると、すでに如月さんと雨宮が『タケルのクラン結成の件』について話をしていた。
「お、お疲れ様ですぅ〜」
「おお、お疲れ〜。悪いね、呼び戻して」
「い、いえ」
「まったく⋯⋯佐川、何やってんのよ! あんたのせいで現場は大混乱よ!」
「いや、えええぇぇ俺ぇぇ! てか、俺だって朝タケルに『今週末にダンジョン行くから』っていきなり言われたんだぞ!」
「知らないわよ! でも、とにかく佐川が悪いの!」
「理不尽っ!?」
「あらあら、仲の良いこって⋯⋯」
「「違う!(違います!)」」
「で、どうして、タケル君はいきなりそんなことを言い出したのか⋯⋯何か聞いている?」
「い、いえ、何も。本当に突然でしたし⋯⋯」
「ふむ」
如月さんがいろいろと聞いてきたが、正直俺も『寝耳に水』な展開なのでわかるわけがない。それを察したのか、
「うん、なるほど。となると、これはおそらく『オメガのDストリーマー活動』に関わることかもだね」
「え?」
「オメガの?」
「ああ。理由はわからないが、おそらくオメガのDストリーマー活動含めた『露出』に何らかの制限がかかったんじゃないかな」
「「露出の⋯⋯制限?」」
「うん。なにせオメガが一躍時の人になっちゃったからね」
なるほど。たしかに如月さんのその線は濃厚な気がする。
「でも、なんで? なんでオメガの露出を制限する必要があるの? 正直、あれだけ強いし、オメガ⋯⋯タケル君本人もダンジョン探索は好意的な感じするし、それにギルドとしてもタケル君のような強い人が探索に前向きなら、むしろ露出を多くして探索者獲得の広告塔として使おうと思うんじゃ⋯⋯」
たしかに。雨宮の考えももっともだ。
日本は世界に比べて探索者人口が少ない。せっかくダンジョン資源は豊富なのに人材が不足しているんだからギルドがそう動きそうなのもわかる。いや、むしろ、雨宮の考えのほうがかなりしっくりくる。
「うん、そうだね。たぶんお嬢の言っていることは正しい」
「だったら⋯⋯!」
「でもね、まぁ、組織はどこだってそうだけど⋯⋯ギルドもまた『一枚岩』じゃないからね」
「え?」
「それって、どういう⋯⋯?」
「簡単にいうと利害関係者がいくつもいるってことだ。ある利害関係者は『タケル君にもっと露出して欲しい』と思い、ある利害関係者は『タケル君の露出を抑えたい』と思い、さらに別の利害関係者は⋯⋯てね」
「「な、なるほど⋯⋯」」
あーたしかに。組織でありがちだよな〜、そういうの。ドラマで観たことあるわ〜。
「ということは、現状は『タケル君の露出を抑えたい』と考えている利害関係者が動いているってこと?」
「ああ、そんなところじゃないかな。でも、さっきも言ったけどギルドの上層部は一枚岩じゃない⋯⋯。今はタケル君の露出を抑えたい者たちがメインで動いているけど、この先いろいろと邪魔が入るだろうね。⋯⋯ちなみに、『タケル君の露出を抑えたい者たち』の利害関係者はおそらく『櫻子』たちだろうね」
「「ギ、ギルドマスター⋯⋯!」」
あーでも、それはたぶんそうかも。
あの記者会見やその後の現在まで続く一連の騒動は、良い意味でも悪い意味でも『オメガ』の名を知らしめたからなぁ。
もしかすると、櫻子様はこの一連の騒ぎを早く収めたいと思ってるんじゃないかな。⋯⋯何となくだけど。
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「とにかく、今はよくわかっていないことがあまりにも多いので、前に話したタケル君に『オメガの正体』を話す、というのは一旦止めよう」
「うん、わかった」
「あ⋯⋯はい」
「ん? どうした佐川君?」
如月さんが俺のあいまいな返事を感じ取って声を掛ける。
「えっと⋯⋯おそらくなんですけど、これからタケルとクランとして活動していくどこかで『オメガの正体』について話すタイミングが、自ずとやってくるんじゃないかと⋯⋯」
「⋯⋯どうしてそう言えるの?」
「いや、だってタケルだぞ?! あの! あの⋯⋯オメガの新衣装で俺たちが言った通りに衣装チェンジした無警戒ボーイタケルだぞ? 絶対あいつ正体を知らないと思っている俺たちにもすぐにボロ出すぞ」
「あ⋯⋯。あー、うん。そう⋯⋯かも」
雨宮がタケルに悪いと思っているような素振りを見せるものの⋯⋯それでも否定はしなかった。いやむしろ肯定した。
「ふむ、なるほど。つまり佐川君はそれならいっそ『自分たちの裁量』で正体の話を切り出してもいいか、と私に言いたいのかな?」
「はい、そうです!」
「いいよ。じゃあタイミングは二人に任せる。そのほうがカミングアウトのベストタイミングである可能性は高いかもだからね」
「ありがとうございます、如月さん!」
「で、でも、そんな、どのタイミングで言うなんて⋯⋯簡単に⋯⋯」
雨宮が『カミングアウトの裁量』を持つことに少し不安を覗かせる。
「大丈夫。俺と雨宮ならわかるさ!」
「⋯⋯佐川」
「おーおー熱いねぇ〜」
「「違う!(違います!)」」