夢の魔女と悪夢の魔女
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
見たい夢って、見たいときにやってこないモノです。
昔々、あるところに「夢の魔女」がいました。夢を見せる魔法が使える彼女は、皆に楽しい夢を見せてあげることが喜びでした。
とある少年は、絵本のような勇者になるのに憧れていました。しかし幼くて弱い彼では、冒険に行くことすら叶いません。
そこで魔女は夢を見せてあげます、勇者になって冒険する夢を。見知らぬ大地を闊歩して、怖い敵にも負けじと戦う、格好いいヒーローになれたのです。
とある少女は、小説のような恋愛に焦がれていました。しかし人見知りな彼女は、誰かに声をかけられず、友達すら出来ません。
そこで魔女は夢を見せてあげます、恋愛小説の主人公になる夢を。素敵な登場人物から積極的に声をかけられて、充実した恋を経験したのです。
とある大人は、日々のことで疲れていました。仕事や人間関係など、様々なことに追われていたのです。
そこで魔女は夢を見せてあげます、そういったモノを忘れて楽しめる夢を。行きたい場所へ行って、食べたいモノを食べて・・・自由な過ごし方が出来たのです。
とある老人は、失ったモノを数えては悲しんでいました。大切な人に思い出をふと思い出しては、もう1度だけとこいねがうのです。
そこで魔女は夢を見せてあげます、そういったモノと再会できる夢を。懐かしいなぁ、また会えて嬉しいなぁと喜べたのです。
そうして夢の魔女も満たされていた、そんな頃。人々の間には、「夢に飽きちゃった」という声が聞こえてきました。
夢の魔女は悲しみます。せっかく皆に楽しい夢を見て欲しかったのに。もういらなくなっちゃったんだと、ポロリと涙を流します。
やがて泣き疲れた夢の魔女は、少し休もうとゆっくり目を閉じました。
そうして、「悪夢の魔女」は目を覚まします。楽しい夢につまらなくなっている人間に、ちょっとしたイタズラをするのです。
旅路に怖いモンスターを置いて、勇者を呆気なく倒してしまいました。少年はすぐさま目を覚まし、もっと強い勇者になりたいと願います。
ヒロインには悪い噂がつき、周りには人がいなくなりました。少女はすぐさま目を覚まし、もっとチヤホヤされるか大切な人が出来ることを望みます。
楽しい日常にて事故に遭わせて、自由を奪ってしまいました。大人はすぐさま目を覚まし、もう1度自由を求めます。
誰かを失った辛い記憶を蘇らせて、哀しみに包ませてしまいました。老人はすぐさま目を覚まし、現在や未来を乗り越えるためのきっかけを欲しがります。
やがて・・・再び、夢の魔女は目覚めました。聞けば周囲の人々は、見たい夢を求めているようです。
皆、私を求めてる。もっと皆に楽しい夢を見せてもらわないと!夢の魔女はすぐさま飛び立ちます。
ーーーもし楽しい夢に飽きたなら、嫌な夢を見て、私を求めて貰おう。
心の中にいる悪夢の魔女は、クスリと微笑みました。
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