5.デロス街
展開が変わりました。2話の方で『』で囲ったように修正をして矛盾を発生しないようにしました。
「まあ魔王自体はもういないんだけどね? でも、やっぱりこの国の象徴としてさ、何かが必要じゃない? 大体、『経済的にデロスは弱めなんだし、それじゃあ』他国からお金を搾り取られる一方だもん。少し位反抗したっていいでしょ?」
数歩歩いた所で、一回立ち止まる。
デロス街に行ってまた帰ってくると分かっていても、やはり私の育った村であるティアトナを離れるのは寂しい。
別れを告げるように、そして再開を誓うようにもう一度村の方を振り返る。
先ず見えるのは、私達の大豪邸。家の周りには隙間なく木が茂っており、家が木に吸い込まれそうな見た目だ。
確か、この家の面積は756坪だそうで、ティアトナの住宅街の面積を1/15も占めているとか。元勇者なだけあり、お母さんの財力は呆れそうな程あったそうだ。
いや、どっちかって言うと今も呆れそうな程ある。ずっと貯めっぱなしで開けてない宝物庫があったから、そこに金貨数十万枚あるとして、えっと現金換算すると……
恐らく億がポケットマネー感覚で出せる位の量だ。デロスを国際的に見ると、割と金とか鉄とかが不足している方の国に入るから、銀行に換算しに行ったら多分とんでもない額で売れるのは間違いなしだろう。
取り敢えず、曾孫のその孫の代位までは遊んで暮らせそうだ。お金の方面では、安心しよう。
「私ったら、そんなにお金貯めてたっけ?」
お姉ちゃんとお父さんの稼ぎ分も合わせてるからね。まあ、かと言ってお母さんの財力がなければ金庫はまだすっからかんの状態だろうね。
「そんなに……もうちょいお金使って豪遊すれば良かったかな?」
大半は豪遊しても減ったか分からなそうだしね。
「それもそうねぇ……」
ティアトナは村と言うよりも集落に近い。ティアトナにある全ての家をかき集めても東○ドームの面積には届かないし、そもそも大半が森と山でできている。……東○ドーム? ナニソレ。
もし住宅街以外も入れたら、そりゃあ何十万人が何不自由なく暮らせるぐらいの土地はあるけど……でも、森を切り開いて住宅街にするとか、そういう森林破壊だけはしたくない。その手はNOだ。
つまり、ティアトナは謂わば森と山がメインで、住宅はオマケみたいな村なのである。
ちょっと残念そうなお母さんを再度畏れ敬い、視点を切り替える。
玄関の目の前、ティアトナで唯一の道であるティアトナ通りを跨ぐと、お父さんが工房長として働くズニエア金属工房がある。
ティアトナの人口は300人余り。その内、半分かそれ以上がズニエア金属工房の関係する工場で働いている。
ある者は武器の部品を作り、ある者は製品の成形を施し、ある者は武器のモデルを考える。大体の工業関連職業がズニエア金属工房に直接関係しているのである。
人口の半分が工業の仕事に就いている、それはつまり工業分野が発展している事を意味する。
実際、自国、他国共にここの製品は質がいいと評価が高い。でも、ティアトナの雰囲気が不気味だったり、外界との情報共有は途絶えているせいで全く人が入ってこないので、生産性は乏しく、ここの武器や防具なんかは高値で取引されるそうだ。
簡単に言えば、誰が作ったってどこの国も作り物にしか興味がないって事だろう。そういう理由じゃなきゃ、製品だけ評価するだけして一切こっちへの干渉をしないなんて所業はしない。
確か、普通の剣一振りで数千万円とか、当たり前らしい。上物になると、オークションに出されて1億から出品されると、お父さんは言っていた。
でも、国がそれをただ鵜呑みにしてた訳じゃない。半年位前にデロス街付近の工業団地に工房を移植しようと国は乗り出したけど、お父さんがこれは伝統工業だとして拒否したらしい。流石お父さんだ。
一振り数千万とは言ったけど、150人の力を持ってしても一つ作り上げるのに手数が多すぎて休日込みで三日は要するらしくて、丁度良く分配したら色々税金とかも払って日給10万らしい。
全体的な給料としては破茶滅茶に高いけどその分生産効率としては余りよろしくないみたいだ。
そういうのも魔法でなんとかなったりするのかな……
村が生命線を維持できているのはほとんど工房のお陰と言っていい。それがなければ即廃村の一途を辿っていただろう。
工房のお陰で村があるという事は、村の収入元の殆どが工房からの利益なのである。日給10万円という馬鹿げた金額の。
つまり、ティアトナは工房に頼りきっている訳だ。モノカルチャーとでも言うんだろう。
でも、今この時代は、正に剣と魔法が支配している。剣は必需品だ。だから、ティアトナが潰える日はそう近い将来の話じゃない、安心しよう。
取り敢えずティアトナの文化はこんな感じ。後は猟師、木こり、日用品販売店、食品店位しか職業はない。まあ、まとまってて職業が決めやすいメリットはあるけど。
正直、金属工房と私達の家以外に目立った観光地的な物はない。今紹介した奴を除けば民家ばっかりだ。でも、強いて言えば大自然だろうか。まあ、デロスにはこんな森、山はいくらでもある。
当たり前だけど、ティアトナの人達とは全員が全員と知り合いだ。顔見知りしかいないので、居心地は最高そのものだ。
私の顔色を伺っていたのだろうか、お父さんが「アスナ、何だ。やっぱり寂しいのか」と訊く。
「いや、もう思い残しはないよ。決心した事だし、うだうだ言ってなんかいられないし! 早く行こ!」
「デロス街に着いたらその自己中精神だけは抑えとけよ。アスラとまんまだからな」
「そっか、気を付けとく!」
私達は積もりに積もった雪をズブズブ踏みつけながら、デロス街に繋がる唯一の林道を闊歩していくのだった。
◇◇◇◇
雪を踏みつける度、足の裏からひしひしと冷たさが伝わってくる。目分量からでも50cmは積もっていると予想がつく程だ。
まだ歩きだして数分しか経っていない。その為後ろを振り返れば、雪を被った周りの木々に隠れながらも、村の目印である自宅がうっすらと地平線スレスレに見える。まだデロス街への道のりは始まったばかりなのである。
デロス街とティアトナは、整然と立ち並ぶカヤの森を突き抜けたかのように一寸の狂いもなく真っ直ぐに伸びた幅3mの一本道で結ばれている。
雪かきはされていない物の、しっかりと道は整備されており、その舗装はティアトナの入り口付近まで続いている。
と、それだけ綺麗で交通の便も良い筈なのに、ティアトナへと足を運んで来る者は冗談抜きで今までに見た事がない。つまり、ティアトナの人間以外見た事がないのである。
私はそれを疑問に思う。ティアトナの人の中に悪い人はいないし、生活が不自由か、と言われても冬が厳しいだけで皆幸せそうに暮らしている。何一つ他の人に避けられる理由になる物の覚えがないのである。
「そういやアスナ。お前、ティアトナには人間が全く流れ込まず、こちらからの人の流動も全くないのは知ってるよな」振り返る事もせず歩きながらお父さんが話しかけてきた。
「うん、お父さんの歴史の授業でやったからね。それがどうしたの?」
義務教育という義務教育は全てお父さんに完璧となるまで教え込まれていた。数学から、道徳までしっかり網羅している。
勉強道具の類は、なんと自作の教科書から自作の校歌まで作って本物の学校を再現している。校歌は、ちょっとどうかしてると思ったけど、お父さんが親バカみたいな物だとしてそのまま流した。
お父さんは工房長として肉体労働をするのが基本だ。でも、実際義務教育の全てを教えれるだけあってお父さんは凄く頭がいい。正に文武両道だ。
詳しく言えば、お父さんは小学校から大学卒業に至るまで、ずっと成績一番をキープしていたそうだ。しかも、何やら文部科学省から作文で賞状も貰った事があるらしい。
そんなお父さんも、今では昔の人のようで、訪ねてくるような知人は誰一人いないそうだ。
「人が流動しない、つまり人口の減少、上昇が他村と比べて圧倒的に少ないのは、ティアトナの人間が避けられているからだ。デロス街でティアトナの人間だ、なんて情報を明かせば通常、そういった対応をされるのは免れようのない事だろう」
「確か、かなり昔に元々ここを治めてた人が自給自足の名目で鎖国を行って、それで周りとの距離感がどんどん開いた。その内デロス街で変な噂が立ち込め始めて、結果ティアトナは自国、他国から共に疎外されているんだっけ」
かなり昔とは、確か今年は1744年だから、大体800年前。紀元952年の時に鎖国は始まったらしい。
そして今から丁度30年前の1714年に鎖国は終焉を迎えた。歴史の教科書では「いないよ」の語呂で覚えられているそうだ。
「一言一句間違えないとは流石だ、アスナ。だが、それを心配する必要はない。俺は金属工房をやっているから少し優遇されるのもあるし、お前の情報はティアトナの人間以外には一切口外されていない。デロス街も少し遠回りで入るから、安心していなさい」
「ありがとう、お父さん」
「何、我が娘にする事として当然だろう」
お父さんは少し鼻が高くなった。私の事をそんなに誇らしげにしていると、何だかむず痒くなる。お父さんはそういうのを人にあんまり見せない方が良さそう。
とまあ、話してる内に結構歩いただろうし、そろそろデロス街が見える筈……
「あ、もしかして、あれじゃない!?」気付いた時には指を差し、声が出てしまっていた。
お父さんも同情するように「そうだな。あれが世界最大の繁華街、デロス街だ」と肯定を重ねる。
私の眼中に我こそは、と最初に飛び込んできたのはティアトナにある家とは比べ物にならない程に高く聳え立つ建物だった。
例えるなら細長い少し小さめの『山』だ。20mは優に越している。あれがビルと呼ばれる物なのだろうか。
よくよく見れば、ビルには貴重な金属がふんだんに使われている。あれは鉄だろうか。
そして、金属と同じ位貴重なガラスもどうやら目一杯使っているようで、太陽光が反射して眩しい。
あれ? デロスってこんなに資源豊富だったっけ? ……いや、違う。これは、ただの『輸入』だ。人様から物資を買ってこんな壮大な物を作り上げるとは、恐れ入る。
やはりティアトナとは全く違う景色が待っていそうだ。
ビルらしき物は、見た限り数え切れない程生えている。まるで大きなキノコが群生しているみたいだ。
見方を変えれば、ビルの大きさはデロス街の中央に向かう毎に増しているから、階段状のようにも見える。
「そうか、アスナはビルを見るのは初めてか」
「あんなのが街にはあるんだ……」
ビルの中はどうなっているんだろう。人が沢山いて、そこに住んでたりするのかな。それとも、働いているのかな。
それに、街の方から賑わっている声が聞こえてくる。どんな人達がいるのかな。アカリさんって、どんな人なんだろうなあ……!
お父さんの授業はまだ不完全だ。私の知らない事はこの世には溢れるようにあるのだろう。
「いや、全ての街がああな訳じゃない。こんな街の発展をしているのはデロス街だけだ。他国の都市なんて見たって、ティアトナとそう変わらないような風景がある事だろう。ここが発展しすぎている、それだけの事だ」
お父さんはそう言って街の方を見上げた。私も真似して見上げる。今の私の心には、負の感情は一切ない、そう言い切れる。だって、私は今幸せだから。
地理の授業で、お父さんは意地悪をするようになぜかデロス街の事だけは教えてくれなかった。お姉ちゃんやアスカにも訊いたけど何も答えてくれなかった。
今思えば、もしかしたら何も知らない私に驚きを与えたかったのかもしれない。
そう言えば、デロス街だけがこんなに発展しているのは、何でだろう。私が考えていた街っていうのは、もっと噴水とか公園があって、優雅な街並みだと思ってたんだけど。
そう思うとお父さんが突然振り返り、「ん? 何だ。どうしてこんなにデロス街が発展しているのか気になっている顔をしているな。まあいい、元々教える予定の内容だったし、教えよう」と話かけてきた。
お父さんってもしかしてお母さんと同じ心が読める人!? どうしてそんなピンポイントで当てれるんだろう……
「運じゃない?」
そっか、運、か。お母さんはお父さんの事は丸わかりだもんね。
「……急に何やら楽しそうだが、まあいい。そうだな、発展している理由の一つは、ある技術者が残した一枚の設計図だと言われている」
「技術者?」
技術者と言って思い付く人と言えば確か、この世の基礎を剣と魔法に定めた初代勇者、名前はスグル・サトウと言った気がする。
スグルは、現代技術を持ってしても再現不可能な道具をたった一人で次々に発明したとか、そんな人だと教科書には書いてあった。デロス街が発展した理由と何か関係してるのかな?
私はこういう話題は好きな質の為、少々考え込んでしまって思わず足が動作を停止した。すかさずお父さんが「おい、足が止まっている。じゃあ、この話は当分お預けだな」と罰する。
「そんな〜! ずるいよお父さん!」
「アスナが雪なんていう理由で死んで欲しくない父さんなりの愛情だ。さあ、デロス街はもうすぐだ。後少し、頑張れ」
「凄く興味深い内容の時に限って何でこうなるのよー!」
「それは、自分で考える事だ、アスナ」