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原罪のホープ  作者: 夜宮真
一章 【嘲笑】
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一話 【届かぬ希望】

 ――帰りたい。


 夜の森に響く仲間の声を背に、彼はそう思った。

 重く震える体を無理やり動かし、暗い森を全力で駆ける。

 恐怖で無意識に開き閉じない目は風を受けて乾燥する。

 足りない酸素を補給しようと空気を吸うが、肺がそれを拒むように痛む。


 仲間を助けろ、と、情が訴える。

 もう楽になろう、と、甘えの声が聞こえる。

 だが、それ以上に恐怖は大きかった。


 数分前まで共にいた人物の顔が思い浮かぶ。

 勇猛果敢で、正義心の強い、いい奴だった。

 しかし、その直後に浮かんできたのは自身の足元に転がってきたモノの表情だった。

 虚ろになった目、動くことを忘れた口、断面から流れ出る行き場をなくした血液。

 光に溢れていた彼は見る影もなくなってしまっていた。


 自然に口角が上がってしまう。

 動かしていた足を止め、彼は声を上げて笑った。

 腹を抱え、目を細め、地面に崩れ落ちる。

 

 ――なんだ、これ。


 精神を無視し、身体は声をあげ続ける。

 可笑しくて、目から涙が出てくる。

 それでも笑いは絶えず続く。

 狂気的なその音は少し遠くなった断末魔に混じった。

 

 瞬間、背後から鋭い物が一つ背中に突き刺さった。

 口いっぱいに鉄の味がする。

 口から何かが吹き出し、それが目前に広がる。

 

 ――痛い。


 続いて一つ、二つ、三つと無数に身体に突き刺さった。

 だが、彼は笑い続けた。


 ――痛い痛い痛い痛い痛い。


 内臓に何かが深く刺さっていく感覚を感じる。


 叫びたい。


 掻きむしりたい。


 逃げたい。


 死にたくない。


 それに反して、彼は笑う。



 やがて笑い声が聞こえなくなってきた。

 いや、遠くなってきた、の方が正しいのだろう。

 意識が遠のき、体が震えていても、口は声を出すのを止めない。

 もう、それが自分の笑い声かも彼は分からなくなった。


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