第一話 嘘とショットガン
俺には嘘がわかる、
俺は目がいいから、人の瞳孔の開き、汗のかきかた。視線の動き、顔の傾き、これらが手に取るように分かる、だから、嘘がわかる。
爺ちゃんも言っていた、お前は特別になれると。
きっと、特別な力だ、 きっと
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バン、
「狐の仮面に、緑色、外れか」
大きな音が鳴るのは、俺のショットガンだ
銀でできた義手と同じく銀でできたショットガンを背負って。
帰路に就いた。
薄暗い路地裏と蒸気の蒸し暑さと硝煙のにおい、血の匂いには慣れたけど、蒸気にはまだ慣れない。
「クルシュ居た、どうだった?」俺の後ろの建物の上から話しかけられた。長身でショートカットの女、仲間の澪だ。
「外れだった」
「そっか、こっちも外れだった」
「まあ仕方ないな、帰ろう」
明るい商店街から、少しずつスラムに入っていき俺たちの拠点が見えた。
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「クルシュと澪も帰ってきたご飯できてるよ」とはアンジュの定型文だ。
「どうだった、クルシュ」
「だめだ。そっちは、ギルフォンス」
「例の場所で狐の面に赤色がでた、これは進歩だよ、クルシュ」
「当たりか、」
「最近増えてますね、澪は?」
アンジュの質問に机にうなだれながら、ため息交じりに答えた。
「だめだったよ」
「今日のご飯は、豪華ですよ」
「そんなに、金ないのか」
「バレますよね。はい、かなり」
やっぱり嘘だったのか、最近は金になる仕事をしてないからな。しかし、アンジュの嘘はわかりずらい。嘘をつきなれているのか。
「でも、美味しいですから」
扉が開いた。
「あ、クルシュさんだー」
「アルスか、どこ行ってた」
「うん、岸本の新作を」
「また、リボルバーか」
「違う違う、今度のはショットガン、クルシュさんもそろそろ変えたら?」
「いくらだった、」
「2000円」視線をそらして答えた
「噓でしょ」
アンジュが、目を開いていった。
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パチ、パチ、パチ、パチ。右手と左手の義手のギアを緩め、箸を持った。俺の義手はギアを緩めないと、箸を折ってしまうからな。
「アンジュ―、おかわり」
「はーい」
「そうそう、クルシュさん。ボクシングの練習付き合ってよ」
「いいけど」
最近アルスはボクシングを始めたらしい、実はなかなかの腕前らしく、俺に挑戦してきたのだ。アルスはなぜか、俺に対して勝負事を吹っかけて来る。
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俺たちの拠点の地下に訓練所がある、この拠点はもともと軍の基地だったからだ。アルスとそこでボクシングをする。
「じゃあ行くよ、」
「こい」
ボクシングは単純だ、相手の神経が反応して守る前に顎を殴った方が勝つ。昔じいちゃんに言われた。
「お前の、神経は人よりも伝達が何倍も速いから、お前は喧嘩が強い」と、つまりそういう言うことだ。アルスが俺のこぶしに注意を向ける前に、顎を打ち抜くためには。アルスの注意をそらさないといけない、そのために、瞬きのタイミングをつかんで、それに合わせて、角度を変える。
そしてそこから、顎に向けて拳を伸ばす。
アルスが止まった、様子を見ているのか。カウンター狙いか。まあどっちでもいい、距離を詰めないと、何も始まらないからな、
あと三歩のところまで来たときにアルスが動き出した、
姿勢をかがめて、一直線に。
こいつは、いつもそうだ、焦って飛び込んでくる、
それをいなして、俺の後ろに流す。その勢いで振り向く。
アルスが振り向くころには、俺のこぶしが、アルスの顎に当たっている。
「アルスが、目で見て脳が守りが必要と判断し、その信号の伝達をして腕を上げるより先に、クルシュはその作業を終わらせていた。だからクルシュが勝った。」
感心したように試合を見つめるアンジュにギルフォンスが言った。
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ギルフォンスは、医師だ。彼には何事も、数字に見える、彼にとっては今の試合も、公式の数字を変えて再度計算しただけ。
「僕は、アルスが苦手だよ、あいつがクルシュに勝てるのは障害物競走くらいの物なのに。わざわざクルシュの土俵で戦おうとする。」
クルシュが義手のギアを緩めるのを、頬杖を突きながら見るギルフォンスをまねて、アンジュも頬杖をついた。
「んー、そこがアルス君の良い所なんだよ、めげないって言いうのかな、夢に負けてない、さっきのショットガンの件も、クルシュさんにあこがれてるんだよ」
下を向くアンジュに、かける言葉が見つからないのを悔やんだ。
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クルシュは不思議な奴だった。
初めてあいつと会ったのはお互い、東の南東のスチームパンクだった。年に一本だけ通っている蒸気機関車に乗っている時だった。
歳は僕もあいつも14だった。
その時に、僕たちの乗っていた列車が襲われた、狐の仮面に黄色だ。
あいつは襲われた時に落ち着いてすぐに列車の窓から飛び降りた。まるで襲われるのを知っていたかのように。
僕は、あいつに付いていった。
僕は、あいつのことが好きだった、合理的な人間、数字の塊。僕が求めていた人間だ。
デリンジャ―ショットガンを使い、相手を正確にうち、行動に迷いがない。
義手なのと、ポンプショットガンがあるのに、デリンジャーショットガンを使っているのは不思議だったがなぜか信用できた。
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あれから、四年たった、仲間も増えた。
アルス、アンジュ、ギルフォンス、澪、あいつらは、みんな俺を慕ってくれている。
気の良い奴らだよ、爺さん。
もう少ししたら、みんなと一緒に行くよ。
俺が、中央のスチームパンクに行って、爺さんの鍵を開ける。