第九話:ゲームは偉大です!
『えっ!!なんだって』
あまりの突然の事にちょっと動揺した。もう一度、聞いてみた。
「あの~今なんて言いました?」
「あ~クンっ!門限はないよ」
と眼鏡をかけた人。
「えっそれはマジですか?ほんとですか?」
と、念を押して聞いてみると眼鏡をかけた人がうなづく。
あまりのうれしさに顔がほころんでしまった。
『おお~、なんかこの眼鏡をかけている人がデカくみえる、なんでだろう!めっちゃ酒臭いのに。』
「姉ちゃん、俺ここに決めた!」
その僕の発言に姉が、
「ほんとにここでいいの?自炊だし。やっていけるの?」
僕はちょっと低い声で、
「ああ。ここなら自分を強くだせる気がするんだよ。自炊と言ってもいずれは自炊しないといけないしね」
ちょっとかっこよく決めたつもりだった。
が、姉はすかさず
「とかなんとか言っちゃって、ほんとは門限がないからなんでしょ。
あんたは門限があった方がいいんじゃないの?それにさっきの大広間の談話室ってところにゲームもいっぱいあったしね~ 」
ギクっ!
そうさっき談話室を見学した際、テレビの横にプレイステーションがあったのだ。
『おおーここにはプレイステーションがあるではないか!できるのかな?できるのかな?』
そう、僕はゲームには目がない。いわゆるゲーマー
しかし、実家ではゲームはご法度だったので、隠れてゲームセンターに通っていた。
家でゲーム禁止令がでた子どもは、逆にもっとゲームに対する思いは大きくなる。僕もそんな子どもの一人だった。
「あの~ここにゲームがあるんですが、個人のですか?」
と眼鏡をかけた人に質問すると、
「あ~クンっそれ? それは寮のだよ。クンっ!やりたかったらやっても大丈夫だよ」
「ええ!!!!!!!本当ですか?やってもいいんですか?」
僕の質問に眼鏡をかけた人がうなづく。
僕の目は、光り輝いた。
しかし、一方でひとつ不安があった。
それは、ゲームが1台、テレビが1台しかないのでゲームがあんまりできないのでは?という寮生活で極めて重要な不安だ。
おそるおそる、眼鏡をかけた人に聞いてみた。
「寮でゲームやる人って多いですか?」
「いや、クンっ!今はほとんどいないね。クンっ!」
「でもテレビも1台しかないからあまりゲームできないんじゃああ」
と僕。
「そうだねー。でも最近は、クンっ!みんな忙しくてテレビを見る人も少ないから、クンっ!大丈夫だと思うよ」
これを聞いた僕の目は、もっと更に輝きを増した!
『ホントーかよ~!!! ああっ!今までは親の目を気にしながらゲーセンに通っていたけど、ここにくればそんなこともなくなるんだ。なんて素晴らしいんだろう。
ゲェ-ムっ!ゲェ-ムっ!ゲーム万歳・・・・でも門限がな~』
とその時は思った。
『うふふふふしか~し、その門限ももはや存在しない。あはははっあはははっ!』
『ここならいける!』
と僕は思った。
僕に怖いものがなくなり、眼鏡をかけた人に堂々と
「あのっ!決めました。ここに入ります。どんな手続きが必要ですか?すぐ入りたいんです!」
「えっとクンっ!まずは面接があります。クンっ!そしてそのときに原稿用紙2枚程度でクンっ!【ここの寮に対する思い】を書いてきてください。」
頭を強く殴られたような衝撃が走った。
「えっえっ面接があるんですか?」
「ハイ、クンっ!寮生全員がクンっ!出席して面接します。」
「えっ面接ということは日程も決めないといけないんですよね??」
「ハイ。」
「えっ 僕、明日には帰らないといけないですが。。。。。。できれば、明日お願いしたいんですけど。。。」
この言葉に眼鏡をかけた人は、
「う~ん。明日かー。クンっ!ちょっとみんなにクンっ!聞かないとわからないので、みんなにきいてから連絡しますクンっ!でも大丈夫だと思いますよ」
「是非、明日お願いします。じゃないともう帰ってしまうので、宜しくお願いします。ここを逃したら次はないんです。本当に宜しくお願いします。」
僕は必死だった。
「わかりました。クンっ!みんなに聞いて今日の夜に電話しますよクンっ!」
「何時ごろになりますか?」
と僕。
「そうだなー。クンっ!九時くらいには連絡するので。連絡先をクンっ!ここに書いてくれます?」
と言いつつ、眼鏡をかけた人はメモを取り出した。
「本当ですか!ありがとうございます。えっと番号は、、、、、、」
僕も早速メモ帳に親戚の家の電話番号と自分の名前を書いた。
『あっそうだ!この人の名前をきいておかないと』と僕は思い、
「あっそれからお名前を聞いてもいいですか?」
「えっボクのことっ?クンっ!ぼくはクンっ!金です。」
「はいっ?」
よく聞き取れなかった。
「韓国人の金です」
しばらくの沈黙の後、
「えっ日本人じゃないんですか?」
と僕。
「違います。」
彼はきっぱり
「韓国人の金です」
「えっ?キム?キン?」
またまた僕はよく聞き取れなかった。
「韓国人のキンです。金のキンです」
またしばらくの沈黙の後、
「あ-キンさんですか!!」
やっと聞き取れた。
『そういわれてみれば、留学生にみえるかも。』と僕は思った。
「日本語すごくうまいですね」
「ハイ。」
あまりの鋭い右ストレートに、
僕は
「あっ、そっそれじゃあ電話待ってますので宜しくお願いします。」
と撤退開始。。。
「それじゃ明日は宜しくお願いします。」
僕は、眼鏡をかけた人・金さんに念をおし、防火扉を締めた。
ヒューーーバタン。
そして、高田馬場駅に帰る途中、姉に
「ああ、姉ちゃん。明日面接なかったらどうしよう!それに寮に対する思いといわれても、原稿用紙にかけないよ~。汚いという思いしかないし、、、、」
「しょうがないんじゃない。明日って言うのは急すぎるしねー。だめだったらまた今度きたら?」
「そんな~。また鹿児島からでてくんの?姉ちゃんちょっとまってよ。
あっそうだ!原稿用紙になんて書いたらいいかわからないから、一緒に考えてくれない?」
「えー自分で考えてよ。」
と姉は嫌がった。
「そんなことを言わずにお願いだよ。ねっねっ。だって書けないものは書けないからさー」
「わたしだって、わかんないわよ。だって男子寮でしょ。汚いしねー」
しかし、そんなこんなで、高田馬場駅の横にあるバーガーキングで分からないなりにも、寮への思いを姉と考え、原稿用紙にまとめた。
「ふう終わった!あーよかった。姉ちゃんありがとうね。助かったよ。」
「まあ明日は頑張りなさいよ。また電話ちょうだい!じゃあまたね!」
僕と姉は駅前で別れた。
『いやーこれでやっと終わったよ。原稿もばっちしだし。あとは電話を待つだけかー。たぶん金さんも大丈夫といってたし、大丈夫だよね。よし、俺も帰るか!今日の夕食はなにかな~』
僕は、なんの不安も感じないどころか、
【寮への思い】という入ってもいない寮のことをどうやったら思えるんじゃ!!
とツッコミをいれたくなるようなテーマの原稿を書き終え、僕には何か達成感すらあった。
そして、僕は安心して親戚の家のある津田沼まで帰っていった。
電話の呼び鈴がならないということも知らずに。