表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/70

第62話:これが拷問だったのか!


僕は一緒に道場へと行ってくれる人を募るべく寮の寮生達に呼びかけて見ることにした。


しかし結果は散々なもの。


パクさんは


「私、行かないわよ」


と断固拒否。


他の寮生も


「俺、興味ない」


「えっやだよ。バイトあるし」


「俺、受験勉強あるし、悪い」


「今からビデオ見るから・・・・」


「もうすでに3つサークル掛け持ちしてるから~」



後藤田さんに至っては、


「えっ格闘技?歌舞伎町なら一緒に行ってやるぜ。いい店・いい姉ちゃん知ってるぜ!」


と逆に誘われ


「いえそっちの方は結構です。」


と僕から断った。



こんな感じでほとんどの寮生達から断られてしまった僕。



『はああ、どうしよう・・・やっぱり俺1人かな~』


僕が困った顔をして談話室のソファーに座っていると、



「一緒に行ってあげるよ」


と声をかけてくれる人が。



「えっ!?ほんとですか?」


僕は顔を上げると、そこには寮長のアリさん。


「うん。いいよ。昔、僕もテコンドーやってたし」



「えっそうなんですか?うれしいな~。


でもアリさんが・・・なんか以外ですね」



「インドネシアで中学のときまでやってたんだよ」



僕はそういうアリさんの体をじーーっと見渡した後、


「へえーそうなんですか。今の体から想像がつかないですね」


とひと言。



「うるさいよ!」


とすぐさまアリさんのツッコミ。



しかし、僕はこうやってアリさんをからかっていたのだが、別段アリさんはそこまで太っていたわけではない。



外見上太っては見えないのだが、これまでの食べっぷりをみると食いしん坊と言わざるを得ないほどの食べっぷりだったらしい。



だから同級生からは、毎食のごはんの盛りの多さに、いつも



「デブいな~」


アリさんはからかわれていたのだ。



けれども、この【食いしん坊】という代名詞は僕がそうそうに受け継いで行く事となってしまうのである。



「それじゃあ、今度の金曜日の夜一緒に行きましょう。」

と張り切る僕。



「おう!」

とアリさん。



そして金曜日の夜がやってきた。




「イッテーーーーーーーーー痛い!いたい!イタイ!!!!死ぬ!しぬ!シヌ!」



道場上に僕の声が響き渡る。


そう、僕とアリさんは品川から一つか二つ先にある駅の近くにあるテコンドー道場を訪れていた。



けれども道場とは言ってもダンス教室を借りての練習だ。



この当時はオリンピック正式種目ではなかった事もあり、まだそこまでテコンドーの知名度は日本おいて高くはなかった。



指導を受けていたのは僕たちを含めて15人ほど。



僕は大の初心者という事もあり、まずは『テコンドーとは何ぞや?』と言う事で、見学することに。



しかし見学者は僕ただ1人。



一方のアリさんはというと・・・・



一応、経験者という事で普通に参加。



僕は、ダンス教室の片隅で1人寂しく見学。



「ハッ!ハッ!ハッ!」


アリさんは声を上げ、普通に参加。



僕は1人正座をしながらしょんぼり見学。



「シャーーーー!」


アリさんは威勢の良い声を上げ普通に参加。



僕は見学。



彼は普通に参加。




僕は見学。



彼参加。



僕は見学。



彼参加。



僕は見学。



彼参加。


・・・・・


・・・・・・・・・・・


一緒に来た意味ないじゃん!



そう、僕は1人じゃ寂しいからと、アリさんに来てもらったのに、なんだか



空しい。



これこそ


「なんだかな~」



である。


僕はここで初めて阿藤快(故人)の口癖の意味がわかったような気がした。



と、しばらく経った後、テコンドーが少しどういうものか分かったという事で、僕の参加も許される事に。



本参加となればまずは足のストレッチから。


けれども、この足のストレッチ・・・・ストレッチという優しい言葉は名ばかり。



実際はというと




僕にとって拷問の何ものでもなかった。



「イッテーーーーーーーーー痛い!いたい!イタイ!!!!死ぬ!しぬ!シヌ!」


僕の足や股は容赦なく広げられる。



しかし、僕の足や股は家族①といっていいほどに硬い。



「ねえー見てみて~。床に手が届かないよ~」


と指先が床に全くつかない事を自慢げに話す僕。


「それじゃあダメよ。体を柔らかくしないと」


と、姉や母。


「嫌だよ。だって痛いから。あははは」


と、自分の体の硬さをさかなに笑いとほのぼのと生活していたあの高校までの日々。



なのに今は一転、


「痛い!いたい!もういいです。もういいです」


と自分の体の硬さに悲鳴を上げる僕。



しかし、そんな僕の悲痛な叫びを他所に、僕の足や股は強制的に開いていく。



皆さんもご存知のように、柔軟するときの痛みほど言葉に表せないものはない。


痛すぎて、自分の手や頭をどこにやっていいかわからなくなり、あまりの痛さに叫ぶ言葉さえも無くなっていくのだ。



このテコンドー。


テコンドーは漢字で書くと【跆拳道】となる。


これは、「跆」{足偏に台}は、踏む・跳ぶ・蹴る等の足技、「拳」は突く、叩く、受ける等の手技、「道」は、礼に始まり礼に終わる精神を表している。(Wikipediaより)


そして、テコンドーのまたの名は【足のボクシング】。


つまり、足技を基本に技を繰り出していく格闘技。


それほどに足技が多彩なのだ。


けれども足技が多彩と言う事は、その前提に体が柔らかくないといけない。



ここで僕はあのパクさんの言葉を思い出す・・・。


「今はもう体が硬くてあんまり足が上がんないのよ」



『そういう意味だったんだ・・・』


僕は少し理解できた。


そして「格闘技を絶対やってやる!」と、ムキになっていた自分に少しだけ後悔したのだった。



体がめちゃくちゃ硬い僕がテコンドー。


これほどに真逆なものはない。



僕がその日の帰り、股と足をかばいながら、よちよち歩きして帰った事は想像に難くない。


それから次の週の金曜日がやってきた。


僕はアリさんに


「今日も、テコンドー行きましょうか!」


と誘ってみた。



するとアリさん、



「今はもう体が硬くてあんまり足が上がんないし、足痛いし、柔軟キツイし、やめとくよ」


とひと言。




『お前もか!』



ということで、結局僕は、1人寂しくテコンドーを習い始めることに。



そして今日も僕は


「イッテーーーーーーーーー痛い!いたい!イタイ!!!!死ぬ!しぬ!シヌ!」


と悲鳴を上げていたのだった。


つづく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ