第31話:紡がれないコミュニケーション
「ハハッ、そんなに怒るなよ」
「いや、冗談にもほどがあるでしょう」
「相部屋としてちょっとからかっただけだろ。コミュニケーションをさあ~」
「そんなコミュニケーションはいりませんよ!!マジやめてください!」
僕は、かなり激高していた。
しかし激高したときほど、言いたい言葉はなかなかでないものだ。
鍵を掛けた犯人が僕と同じ部屋の鈴木さんと知ったらなおの事。
鈴木さんは屋上で僕をみかけ、出来心で鍵を閉めたらしい。
そんな出来心って、、、、
鈴木さんはすぐに開けようと思ったらしいのだが、ちょうど携帯にバイト先から緊急の連絡がありそのままバイト先へ。
僕が救出されたのはそれから1時間後のこと。
『誰がこんな事を』と思ったときは、頭に血が回ったのだが、
犯人が鈴木さんと分かったとき、瞬間的には怒りがこみ上げてきたものの、
しばらくすると、鈴木さんに対しての怒りよりも失望感の方が大きくなっていった。
『あれほど、クールで規律に厳しく俺らに指示や注意する人がそんな事をするのか』
その日は、鈴木さんと会話する事はなかった。
しかし、ここが寮の皮肉なところ。
相部屋である以上、帰る部屋・寝る部屋は同じ。
嫌でも、鈴木さんとは顔を合わせなければならない。
コミュニケーションとは難しいものだ。
鈴木さんは僕とのコミュニケーションを図ろうと思い行動したのであろうが、僕はその行動によって傷ついたのだから。
この事件以来、なんとなく鈴木さんと僕との距離は一定の距離を持つ事となってしまった。
けれども、彼がひと言でも
「ごめんね」
と言ってくれるのであれば状況はかわっていたかもしれない。
その頃からだろうか、僕が他の相部屋の人たちをうらやむようになったのは。
僕が自分のベッドで本を読んでいると、壁の向こうから笑い声が聞こえる。
白と三木谷さんの部屋からだ。
「あははははははは!」
隣の部屋はいつも笑いが絶えない。
『いいな~』
笑い声を聞くたびにそう思った。
「あははははははは!」
笑い声を聞くとなんともいえない気持ちとなる。
「あははははははは!」
・・・・・・・
・・・・・・・・
『くそっ!同じ寮で同じ一年生なのになんでこんなに違うんだよ。どうして俺にはないんだよ。クソッ』
悔しくて悔しくてたまらない。
あんなのぶち壊してやる。
僕の大学生活の歯車は狂っていった。