第13話:未知との遭遇
「ナンデスカ~。後藤田さん」
顔は日本人のように見えたが、片言の日本語をしゃべるので、留学生だということがすぐわかった。
「彼が今度この寮に入ってきた新入生のタケオだ。お前と同じ新入生だよ。仲良くしてやってくれ!」
後藤田さんが片言をしゃべる留学生に私を紹介してくれたのだ。
「あっハイ! タケオと言います。どうぞよろしくお願いします。。。。。。。。。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。失礼ですが留学生の方ですか?」
「ハイ。中国からの留学生です」
彼は即答した。
僕は緊張してしまった。
なぜなら、僕にとって留学生?を見るのは生まれて初めてだったからだ。
ん??
しかし、よく考えてみると、僕は留学生に会っている。
金さんとアリさんだ。
しかし、彼らには留学生というオーラはなく、金さんは・・・・・・?よくわからんが、アリをとってみれば、日本人と間違うほどだったのだ。
一体なにが違うんだろう??
ポン
ポン
ポン
チ―ン!!
そうだ、しゃべり方だ。
僕のイメージはそう、片言をしゃべる留学生だったのだ。
わたしにとって片言をしゃべる留学生が留学生なのだった。
そんなイメージぴったりの留学生が目の前にいる。
そんなことを考えていたら、なんとなく緊張してしまった。
未知との遭遇。
この言葉がこの状況に一番ふさわしい。
何を話していいのかわからない。
『え~と何を話そうか。
う~ん。
そうだ!!
初対面の共通の会話があるじゃないか!』
と僕は思い、そして言ってみた。
「いや~今日は暑いですね~」
・・・
・・・・
ベタだ。
ベタすぎる。
僕もベタであることは、よ~くわかっている。
しかし、ベタだからこそ、必ず初対面の日本人なら、まずする挨拶だ!
これなら少しは会話の足しになるはずじゃあ~
・・・・・・・・・・・「えっ???」
彼からの返答はこれだった。
・・・・・・・・・甘かった。
僕の考えは甘かった。そしてやっちゃった。
次の言葉がでてこない。
万国共通と思っていた質問をうまくかわされ、僕はテンパってしまった。
そして沈黙の時間が過ぎていく。
そんなテンパった僕を見かねた榎本さんが、こう切り出した。
「そう言えば、タケオはこいつと同じ大学なんだよな。」
『へえっ?』
少しの間、事情が飲み込めなかったが、次の瞬間、僕の心に光が輝いた。
「えっ!ほんとですか?おんなじ大学なんですか?」
後藤田さんが相づちをうつ。
なんか親近感が沸いてきた。そう思ったら緊張もなくなっていく。不思議なものだ。
中国人の留学生も僕の心境と同じだったようで、同じ大学であるという言葉により、
お互いいくつもの質問をしあった。
「あなたもJ大学なんですか?」
「何学部なんですか?」
「どれくらい日本にいるのか?」
「年はいくつですか?」などなど。
そしてそんな未知との遭遇のような緊張感から解放されて、一安心したときだった。
『あっ!
そう言えば、
名前をまだ聞いてなかった。』
そういうことって結構、僕たちの周りでもあるはず。
何気に親しく話していたのに名前を聞き忘れてしまうという行為。
僕は質問した。
「すいません。名前を聞くの忘れていたんですが、お名前はなんですか?」
この質問に中国人の彼はこう答えた。
「ハクリキクンです」と。
『んっ!?
自分の事を君づけしている。・・・・・・!!
そうか、まだ君とさんの違いがわかんないんだな。
じゃあ さりげなく、さんづけで気づかせよう』
と僕は敏感に察知した。
「あ~ ハクリキ さんですか。よろしくお願いします。ハクリキさんっ!」
と僕。
「いいえ、私はハクリキクンです。」と彼は答えた。
・・・・・・・・・・
困った。
彼は気づいていないのだろうか?
・・・・・・・・
『あっそうか!
白さんは自分のことを君づけで読んでほしいんだ』
と僕は察知。
「あっ
ハク・リキ君ですね。
わかりました。」
「そうです。
白力勲です。
宜しくお願いします。」
僕が、ハクリキクンの『くん』が、『君』ではなく『勲』であり、苗字が白、名前が力勲であるという事を知ったのは、それから一ヶ月後のことだった。
ハクリキ君~~~~~~~~!!
つづく。