第十話:電話に待ち焦がれるんです!
「寮がきまってよかったわね~」
親戚のおばさんが言った。
「いえ、まだそうとは決まってなくて、明日面接できるか電話が来るんですよ~」
「えっ!明日には鹿児島に帰るんでしょ?大丈夫なの。」
「明日は最終便だから大丈夫だと思います。寮の人も大丈夫だろうって言ってたから」
「それならいいんだけどね~。」
おばさんが、ちょっと心配そうな顔をしていたので、
「大丈夫ですよ!・・・・たぶん」
と、僕。
その言葉には、何の根拠もないので、力がなかった。
今の僕にはただただ寮からの電話を待つのみだった。
しかし、九時になっても電話は鳴らない。
九時十分・・二十分・・・なかなか電話が来ない。
『まさか、俺の面接のことでもめてるのでは!!』
それを考えると少し不安になってきた。
それからまた三十分が経ち、・・・・・・・・・・そして10時になってしまった。
「たけちゃん!こっちから電話してみた方がいいんじゃないの?」
とおばさん。
「おい!たけ坊!その寮の連中、忘れてんじゃないか~!大学生なんてそんなもんだぞ」とおじさん。口は悪いけど、とてもいいおじさんだ。
「でも、必ず電話すると言われたから。もう三十分まってみます」
「そう」と心配そうなおばさん。
案の定、三十分過ぎても電話が来ない。
「やっぱり、忘れてるのよ~。こっちから電話しなさい」
「え~でもあれだけ、電話番号も書いてきたのにな~」
「もし面接が明日の朝だったらどうするの?ここを早くにでなくちゃいけなくなるのよ」
「それはないんじゃないですか?だって俺が千葉の習志野にいるって知ってるし。配慮してくれますよ~」
「そうかしらね~」
「たけ坊!そんなに簡単に信じちゃだめだぞ」とおじさんは晩酌をしながら言った。
「そうですかね~」と僕。
でも連絡が来ないのは事実なので、こっちから電話することにした。
「えっと。真理寮はっと。・・・・0332*****7っと」
トゥルルルルーーーーーーガチャ
「はい。真理寮です。クンっ」と誰かが電話に出た。
「あの~私、今日、そちらの寮を見学した者ですが~」
「ああ。さっきの~。クンっ・・・金です」
「あっ金さんですか?タケオです。面接の時間はどうなりました?」
「えっっ。面接??」
とちょっとびっくりした感じの声だった。
「はい面接の時間です。九時までに電話してくださるって。」
「ええーー。クンっ。えっとちょっとまってね。今、時間ある?」と金さん。
「はい。大丈夫です」と僕。
「じゃあ、クンっ。ちょっとまって」
ガタン!
この言葉を言い残すと通話が可能のまま受話器をおいたようだった。
その瞬間、かすかに電話口から声が聞こえてきた。
[面接希望者が、クンっ。いるんだけど、どう?]
[いつ?]
[明日なんだけど。]
[はああ明日~。]
[俺は出れるよ]
[何で明日なんだよ!!]
[俺は明日出れねーよ。]
[朝しか時間ないんじゃないか~]
[マジで。]
[どうすんの?]
色んな人の声がした。
『なんなんだ一体・・・まだ相談してねーのかよ』
グググガチャ。
受話器を取る音がした。
「もしもし」と金さん。
「はい!」
「明日なんだけど、クンっ。7時来れる?」
「へえっ??7時って朝ですか?」
「ハイ」
『そんな殺生な~』
「うーーーう。ぼく千葉から出てこなくちゃいけなくて、もうちょっとおそくできませんか?」
「みんなのクンっ。予定が合わないクンっ。みたいなんだよ。クンっ。」
「はあ。そうですか。わかりました。ちょっと遅れるかもしれませんが、7時に間に合うように頑張ります。」
と、冷静な態度を見せた僕だが、内心『おめえがみんなに知らせてなかったんだろうが~』とかなり穏やかではなかった。
「じゃあクンっ。明日七時に。宜しく!!クンっ」
「はい。宜しくお願いします。」 ガチャ
『一体なんなんだよ。なんか俺が悪いみたいじゃないかーー』
「明日何時からって?」とおばさん。
「明日七時から面接だって」と暗い声の僕。
僕のテンションは相当下がっていた。
「明日、七時??だからいったじゃない。大学生はそういうもんだって。もう11時じゃない。早くお風呂入って寝ないと。明日はそうすると4時起きかしらね~」
「たけ坊だから言ったろ!!大学生なんてそんなもんよ。まだ社会にでてないんだから。おめー早く寝な!」
「食事はおにぎりにしとくからね」
「おばさん!本当にごめんなさい。迷惑をかけちゃって。」
「いいのよ。それより早くお風呂に入りなさい。明日の支度もしてから寝なさいよ。」
「は~い」
そして次の日。
僕は朝四時におき、面接という事もありスーツを着、鹿児島に帰る用意もして、駅に向かった。
かなり眠たかったがスーツ姿はバッチリ!!!
誰もいないと思っていた駅には、通勤するためのサラリーマンが結構いたのでかなり驚いた。
そして、7時前に真理寮についた。
『ほんとにこんな朝早くから面接するのかな~』
不安を感じつつ、スーツもよし。
身だしなみよし。面接がんばるぞ!!
と意気込みながら、扉を開けた。
ガチャ
寮はとても薄暗かった。
「おはようございま~す」と僕。
シーン
「今日、面接する武夫です」
シーン
「すいませ~ん」
「ハイ。どなた?」
背の高い眼鏡のかけた人が出てきた。
「あの~今日7時から面接するタケオと言います。」
「面接??」
「ちょっと待ってくれる?俺も今帰ってきたばかりなんだよ」
と言ってその人は行ってしまった。
僕はとても不安になった。
『面接って今日っていってたよな~。7時って言ってたし。俺は間違ってないよな~』
背の高い眼鏡をかけた人が帰ってきた。
「じゃあ、こっちで待っててくれる?」
僕は談話室に通された。
が、談話室には誰もいない。
何分経っただろう。
『どれだけまたされるのかな~』
ガチャ。
談話室のドアが開いた。
寮生だろうかゾロゾロ集まってきた。
『おっこれが面接か~!
てか、みんな寝起きかよ~~。』
寝ぼけている人あり。
寝癖の人あり。
パジャマの人あり。
ぼくだけがスーツ。ネクタイは気合を入れて新品のだし。
僕だけが、清々しい。
『これって、もしかして、僕だけが浮いてる?』
僕ってなにか間違ってますかあ?
そんな自己嫌悪に陥っているときに1人の寮生がひと言。
「それじゃあ面接をはじめます」
『えっえー寝起きで、はじめちゃうのかよ!!!』