93.プランを変更いたします
翌日から、仕事の合間を見つけては侍女や侍従に聞き込みをして回りました。
……結果は芳しくありません。
フィーの悪い噂を聞き出し、そこから裏の顔を手繰り寄せるつもりだったのですが。
「フィーお嬢様はセイレンケッパクを絵に描いたような方だからね!」
これは侍従に聞き込み中のところへ割り込んできたネリの言葉。
「毎朝の礼拝は欠かさない、旦那様と奥様の言いつけは必ず守る、週に一度は孤児院の手伝いに行く、他にもいろいろ……。とにかくすごい方なんだ!」
「そうそう」
若い侍従も笑顔でうなずきます。
「社交界にデビューしてからも浮いた噂は一切なし。フィーお嬢様のようにお淑やかで純真な女性なんて、階下には絶対いないよなぁ」
「そりゃそーよ! あたしたちとは生まれも育ちもぜんぜん違うんだから」
ふんす、とネリが自慢げに鼻を鳴らします。
侍従はお手上げだというふうにこちらを見て、
「ところでローザちゃんだっけ? 今度の休み、俺と遊びに行かない? いい店知ってるんだけど」
などと言いながら私の肩に腕を回そうとします。
しかし避けるまでもなく、ネリがその腕を一瞬で叩き落としました。
「いでっ!」
「ローザに気安く触らないでくれる⁉」
「べ、別にいいだろ。お前のもんじゃあるまいし」
「だーめ! あんた、新人にすぐ手出すんだから!」
「人聞きの悪いこと言うなよ!」
やいやい言いはじめる彼らを置いて、私は一人そっと抜け出します。
……完璧な人間などいるはずない。フィーにも何か欠点があるはず。
ですが、このままでは埒があきません。
フィーの父であるヴィクター卿が戻るまでに決着をつけなければ。もうこれ以上、お兄様との結婚話を進ませるわけにはいかないのです。
『本当に、私の願いを叶えてくださるのですね?』
フィーの明るい声音が耳によみがえり、私は歯を食いしばりました。
──絶対に。
あなたにお兄様を渡したりしない。
「あいつの弱点?」
邸宅を囲む広大な庭。
その一角でゼトと落ち合いました。
お兄様とフィーの結婚を阻止するべく手を結んだ私たちですが、人目につく場所で会話するわけにはいきません。他の使用人、特にネリに見られたら、不審に思われてしまうでしょうから。
「ええ。あなたならフィーの弱点を知っているでしょう?」
「知らん」
ゼトが嫌そうな顔で即答します。
「本当に? よく考えましたか? あるでしょう? 何かひとつくらい?」
「むっ……?」
問い詰められて視線を漂わせ、それから「ああ」とうなずき、
「あいつは猫に弱い」
「猫?」
「肉球を見ると触らずにはいられないらしい。口では『神鳥派として鳥を愛でなければ』とか言いながら、野良猫を見るとすっ飛んでって餌をやってるな」
「…………」
大真面目に語るゼトに、私は盛大なため息を漏らしました。
「……使えない男……」
「今なんつった?」
こめかみのあたりを震わせつつ、ゼトは咳払いします。
「貴様の計画には無理がある。あいつの善人ぶりは生まれつきだ。婚約破棄につながるような欠点など見つからんぞ」
「そうですね。彼女に惚れているあなたに聞いたのが間違いでした」
「……ッ、じゃあ貴様の兄貴の弱点を言ってみろよ!」
「お兄様に弱点なんてあるわけないじゃないですか」
即答し、もう一つの案に考えを巡らせます。
あまり取りたい手段ではありませんが──
「わかりました。フィーのスキャンダルを見つけるのは一旦保留にします。その代わり……」
さっと顔を上げ、私は事務的な口調で告げました。
「あなたには、フィーと駆け落ちをしていただきます」




