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88.お仕置きの時間です




「ねえ、あった?」


「ううん。引き出しには入ってないみたい」


「しぶといわよね、あのローザって子。なかなか辞めないんだから。壺まで割ってやったのに」


「そうそう。いつもだったら泣きべそかいて荷物まとめるころよね」


「ちょっと待って。ねえ、ほら。ベッドの下に鞄がある!」


「それよ!」


「……あった!」


「すごい。本当にきれいねぇ」


「これがなくなったら、絶対ネリが取ったと思うよね」


「間違いないわ。でも、どうしてこんな高価な」



 ガチャッ。

 ドアノブをひねって開け放つと、私とネリの部屋に忍び込んだ二人の少女──ネリと同い年くらいのメイドたちが驚いて顔を上げました。



「はい。そこまでです」



 私はにっこり微笑みます。

 少女たちの顔がさぁーっと青ざめました。わかりやすくて大変結構ですね。



「お話は聞かせていただきました。あなたたちが私に嫌がらせをしていたのですね」



 真顔になって冷たい瞳で見下ろします。

 とっさになんと言えばいいかわからないらしく、少女たちは身を寄せ合うように固まっています。



「それ。返していただけます?」



 少女の手に握られた鏡。持ち手の部分にダイヤとルビーのモザイクが施されたフレイムローズ家の手鏡です。

 私はネリと打ち合わせして、食事中にわざとこの鏡の話をしました。私が母の形見である鏡を持っていること。それをこっそり見せてもらったネリがその美しさに感動した、という作り話を。

 食堂はメイドたちがほぼ全員集まる場所ですから、犯人がいれば食いついてくるだろうと踏んでいたのですが。

 おもしろいほどあっさり食いつきましたね。



「ち、違うの。私たちは……!」


「私たちは?」


「ええと、その」


「この状況で言い逃れは厳しいのではありませんか?」


「………」



 私は小さく肩をすくめ、



「ネリ。お願いします」



 促します。

 そばで一部始終を見ていたネリがおずおずと前に出ました。



「あ、あの」



 途端に、少女たちがネリを睨みつけました。

 その強い視線に一瞬たじろぎつつも、ネリは勇気を振り絞るように言います。



「あなた、たちっ。なんでこんなことしたの? ローザだけじゃなく、前のルームメイトにも。ねえ、あの子たちが何をしたっていうの?」


「そんなの決まってるでしょ」



 ムッとした顔で少女が言い返します。



「あんたがカフラーマ人の血を引いてるからよ」


「………あたしのせい?」


「そう」


「じゃあ、あたしに嫌がらせすればいいのにっ」


「したわよ!」



 もう一人の少女が癇癪を起こしたように叫びました。



「何度も何度も! 足ひっかけて転ばせたり、掃除したとこに足跡つけたりっ」


「え? そんなことあったっけ」


「ああっ、だから嫌なのよ! こっちが嫌がらせしてもぜんぜん気づかないんだから。それであんたのルームメイトを標的にしたの!」


「そ、そうだったんだ。掃除したあとにお客様がよくいらっしゃるもんだなぁって思ってた。それにあたし、普通によく転ぶから。その、気づかなくてごめん……」


「そこは謝るところじゃないですよ」



 こめかみを押さえて私は呻きます。



「ところで、あなたたち。カフラーマ人に何か恨みでもあるのですか?」


「……私たちの祖父は貴族だった」



 少女が言って、もう片方の少女を横目で見ました。

 あとを引き継いだ少女はうなずいて、



「私たち、従姉妹なの。祖父はカフラーマ戦役で死んじゃって。もし生きてたら、うちは今も裕福だったはずなのに……!」



 悔しそうにネリを睨みつけます。



「………は?」



 私は思わず声を上げていました。

 カフラーマ戦役?

 それって三十年前の戦争ですよね?



「それが一体、ネリと何の関係があるのですか?」



 ガッと二人の顎をつかんで顔を覗き込みます。

 少女たちが再び凍りつきました。



「どうぞ説明してください」


「いいよ、ローザ。そこまでしなくてもっ」


「別に何もしていませんが」



 ネリが泣きそうな顔をするので、私はしぶしぶ二人を放します。



「ふむ。ではお二人とも、ご出身は貴族の家系ということですね。没落したとはいえ、ご両親はさぞ誇り高い精神をお持ちでしょう。そんな方々があなたたちの卑劣な所業を耳にしたら……ああ。どんな気持ちになるでしょうか?」


「‼」



 今度こそ完璧に、少女たちの顔が色を失います。まさに紙切れのような白さ。



「ごめんなさいっ! もう二度としません!」


「ちゃんと謝るから、どんなことでもするから!」



 そろって両手を床について頭を下げます。



「お願いします! パパとママにだけは……!」


「──どんなことでも?」



 静かに尋ねると、這いつくばったままこくこくとうなずく二人。



「わかりました」



 そんな彼女たちに向かって、私はうなずき返しました。

 フィー=エメルそっくりの──

 女神のような微笑みを浮かべて。




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