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82.ずっとこのまま




「すべて」



 深いルビー色に向かって、ひとかけらも迷うことなく即答しました。



「私は、お兄様のすべてがほしい」



 数秒の沈黙のあと、



「すべてと言うが」



 お兄様は淡々と呟きます。



「結婚はできない」


「それは……わかっています」



 近親同士の恋愛や結婚は死刑。

 それがこの国の掟。



「だが、それ以外の全てを与えることならできる」



 それ以外の、全て……?

 お兄様の言葉に心が疼くのを感じながら、私は恐る恐る尋ねました。



「では、フィー=エメルとは?」


「結婚しても指一本触れない。心を通わせることもない」


「それでも結婚なさるのですか?」


「必要なことならば」



 ──帝国を手に入れるために。

 私がお兄様を手に入れるためなら、ユリアスとの結婚を厭わないのと同じように。



「……………」



 想像してみます。

 お兄様はフィーと結婚し、私はユリアスと結婚する。伴侶を寝室に入れることはない。私とお兄様は宮廷の一室で毎日のように密会し、結婚を除いた互いの全てを手に入れる。誰にも邪魔されることのない、夢のような日々──

 ……どうしてでしょうか。

 あまり幸せな気持ちになれません。

 ぼぅっと庭の風景を眺めます。

 このバラの庭。フレイムローズの中で一番好きな場所です。



「小さい頃……」


「?」


「よく、この庭で遊んでくださいましたね」


「……ああ」



 まだお兄様が冷たい目をしていなかったあの頃。

 年が四つ離れた私と、本当によく遊んでくださいました。木陰でピクニックごっこをしたり、ベンチで本を読んでくださったり、生垣の迷路を一緒に探検したり。

 遊びに来たエリオットと大喧嘩になって、間に入ってくださったこともありました。

 バラの棘で指を刺して泣いていたら、口で血を吸いとってくださったこともありました。

 それこそ、私にとってかけがえのない、夢のような日々──



「ねえ、お兄様」



 急に幼子に戻ったような気分になり、私はお兄様の膝に抱きついて頬ずりしました。

 遠い日の幻覚。

 その中で、私たちはまだ無邪気に庭を走りまわっています。



「このままではいけませんか?」


「このまま?」


「私も、お兄様も、ずうっとこのお屋敷で暮らすの。リオンやアシュリーお姉様はいずれ出て行く。そうしたら二人きりになれる」


「………」


「ずっと、このまま、誰とも結婚しないで、二人だけで……」



 風がまつ毛を揺らし、そこに反射する太陽の輝きを無数の粒にしてまき散らしました。

 美しい幻想が、白い光の中に埋もれていきます。



「できない」



 風と光の向こうから。

 諭すような──

 やさしい──

 声がしました。



「……それはできないんだ。フラウ」




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