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74.もう手遅れかもしれません




 続けざまに響く金属音。

 フィルが現れた瞬間から、暗殺者はすさまじい速さで刃を繰り出していました。

 もう何も語ろうとはしません。

 そこにあるのは猛烈な剣捌きと、濃密な殺意──それまでがお遊びだったと言わんばかりの。

 フィルは私たちを守る盾のように一歩も退かず、細身の剣を振るい続けています。



「お館様!」



 侍従長が寝室に飛び込んできました。



「お館様を守れ!」


「この、曲者が!」



 シルバスティン家の屈強な兵士が部屋に踏み込んでくるのと、フィルが暗殺者の刃を弾いて斬撃を加えるのとはほぼ同時でした。

 トンッ──

 軽い音とともに暗殺者は宙に浮かび、フィルが放った横薙ぎの一閃が空を切ります。

 黒装束に包まれた体はしなやかに回転し、静かに窓辺へ降り立ちました。



「逃がすか!」



 暗殺者は迷うそぶりもなく、後ろ向きに身を躍らせます。

 夜空に吸い込まれるようにして消える暗殺者。

 衛兵が窓の桟を叩き、憤怒の形相でまた駆け出していきます。



「お館様、ご無事ですか!」


「僕は無傷です。それよりフラウがっ……!」



 駆け寄って来た侍従長にティルトが泣きそうな声で言いました。

 侍従長がはっと息を呑むのがわかります。

 ええ。

 自分で言うのもなんですが──手遅れのような気がいたします。

 この世界の医術はさほど発達していないようですし、仮に前世の最新医療が整っていたとしても難しいかもしれません。

 肩から脇にかけて切り裂かれた背中の傷はどくどくと血を流し続け、白い羽根布団を真っ赤に染めています。意識が朦朧としはじめていますので、激痛の感覚は薄らいできました。

 代わりに、とても……寒いのですが。



「我が王女」



 穏やかに呼ぶ声。

 その呼び方はやめなさい、と言ったのに……。



「これは王族の許しがなければ使うことができません」



 そばにひざまずいたフィルが、懐からガラス瓶を取り出しました。

 エリオットが使っていた──《霊薬》の容器に似ています。

 ふらつく視線を上げると、フィルは小さくうなずきました。



「許す、とおっしゃってください」



 淡い水色の瞳が星のように光って見えます。



「一言だけ。許す、と」



 こんなときでも変わらない。やわらかく落ち着いた声。

 そういえば、この声もどこか懐かしい響きがあります。

 私は……あなたに昔、どこかで会ったことがある……?



「ゆる……します……」



 かすれた声で呟いて、私は瞼を閉じました。




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