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71.呪いを解いてさしあげます




「フラウは《シルバスティン家の呪い》の話を知っていますか?」


「……もしかして、男の当主が早死にするって噂のことかしら」



 そんなくだらない噂がありましたね。



「まさか信じてるの?」


「いえ。僕、根拠のない話は信じないので」


「そうよね」


「でも母上は」



 ティルトは膝元の寝具をぎゅっと握ります。



「噂や迷信をバカにしてはいけないと。噂というのは、人の意識が集まって作り出したものだから。真実より噂のほうが重要なこともあるって」



 ふむ、一理ありますね。



「父上が家を継いだときも、噂が流れて」


「ええ」


「父上は、みんなの不安をなくしたかったんだと思います。たくさん勉強して、領民の暮らしを豊かにする方法を山ほど考案しました」



 エメル家からの入り婿だったティルトの父。

 まじめでひたむきな人物だったようですね。



「でも、どれもうまくいかなかったみたいです」


「なぜ?」


「臣下と意見が合わなくて、領民にも反発されたって」


「………」



 古式ゆかしきシルバシティン。

 変化を嫌い、利権やしがらみが絡みついた土地です。入り婿の当主が政を行うのはさぞ大変だったでしょう。



「母上は、そのせいで父上が死んだと思っています。やさしい人に向かないことばかりやっていたからだって」



 苦労の末に前当主は病没し、幼い息子が跡を継ぐことになった。

 人々はますます噂したことでしょう。



『男当主は縁起が悪い』



 ……ようやく全体像が見えてきました。

 不吉な噂の飛び交う旧家。

 幼い当主を廃し、私を連れてきて強引に継がせようとするニーナ。

 ティルトが父親と同じことを繰り返せば、シルバスティンは没落する──それが表向きの理由でしょう。

 でも。



「要するに叔母上は、あなたを失うのが怖いのね」



 そう言うと、ティルトは目をぱちくりさせました。



「そう……なのでしょうか」


「不安に駆られた母親ほど迷信深い生き物はいない。叔母上は、あなたを当主の呪いから逃がしたいのよ」



 母の愛。

 しかしそれが新たな呪いとなって、ティルトを縛ることになりました。

 彼の咳の発作はおそらくストレス性のもの。だから《霊薬》では治らなかったのです。



「それは、僕が頼りないから……」


「そう? あなたは七歳にしては信じられないほど頼りがいがありそうよ。叔母上のために子供らしくしていたみたいだけど、そんな演技をする必要はないんじゃないかしら?」


「そう、かな……?」


「ええ」



 むしろ私としては、従弟が天才児だったということを世間に言いふらしたい気分ですが。



「あなたはあなたよ。ティルト」



 小さな手を握って私は微笑みました。



「親の望むように生きる必要はない。あなたは、あなたの思う道を進んで。そのためなら私は喜んで力になるわ」



 銀の大きな瞳が揺らめきます。

 小さく鼻をすすって、それから、幼い当主は花のように笑いました。




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