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66.神託はご遠慮させていただきます




「我が王は最初から、あなた様を王国で育てるおつもりでした」



 雪のように白い睫毛を震わせながら、フィルは静かな声で言いました。



「最初から……? 生まれたときからということ?」


「はい」


「聞いた話だと、母はあばら家で私を生んだらしいけれど」


「ご両親は我が国の小村にお住まいでした。確かに、《白銀》の令嬢が住まわれるような立派なお屋敷ではなかったでしょうね」



 まあ、互いに家を捨てての駆け落ちですし。

 たどり着いた先がその村だったのでしょう。



「国王は居場所を知っていたの?」


「ええ」


「じゃあ、駆け落ちした息子を連れ戻そうと?」


「それは違います」



 穏やかな微笑みを浮かべ、フィルはゆるりと首を振ります。



「王はお二人の結婚を認めておいででした。ただ王子には婚約者がおりましたので、そちらの顔を立てる必要があったのです。それに王子ご自身が、しばらくは王室を離れてのどかな暮らしがしたいと望んでおられました」


「………」



 なんだか──

 想像していた話と違いますね。

 何もかも捨てて平民として生きていこうとしていたのではなく、ほとぼりを冷ますため一時的に村に身を寄せていた、という感じでしょうか。

 そして、そのころに私が生まれた。



「あなた様がお生まれになったことで状況は変わりました。王はフィオナ様との結婚を正式に認め、かわいい孫であるフラウ様と共に王宮で暮らすことを望みました。王子とフィオナ様も、それに応えようとしていたようです。……しかし」


「私の父が死んだのね?」



 フィルはこくりとうなずきます。



「王子の死は突然のことでした。事故死であったと思われますが、真相はわかりません。少なくとも……フィオナ様は事故とお思いにはならなかったようです」



『……あの人は王室を憎んでいた』


『お前の父親を、殺されたからだ』



 お兄様の言葉を思い出し、私はそっと拳を握りしめました。



「父の死に王国が関係していると思った母は、私を連れて帝国に逃げ帰った」


「はい。ですが、それは誤解なのです」


「誤解?」


「フィオナ様がお考えだったような、王位継承権争いにまつわる暗殺だったとは思えません」


「なぜそんなふうに言い切れるの?」



 一国の王子が死んだのです。

 好きな相手と駆け落ちしたうえ、それを許されて王宮に戻ろうとしていた。それほど王の寵愛を得ていた者が、暗殺の対象にならないと断言できるでしょうか?

 疑いの眼差しを向ける私に、フィルは落ち着いた声で答えました。



「他国の方はあまりご存じないかもしれませんが、我が国において、王は神託によって選ばれます」


「神託?」


「神託とは、神鳥の言葉を指します」



 神鳥フォルセイン。 

 王国に住まうという伝説の霊獣が──

 神託を授ける。



「……鳥がしゃべるの?」


「え? あ、はい、ええと……そう……なります」



 急にぽかんとした顔つきになるフィル。

 私ははっとしました。

 神鳥フォルセインは信仰の象徴。王よりもはるか高みにいる存在です。

 それを「しゃべる鳥」だなんて、失礼な発言だったでしょう。



「ごめんなさい。今のは忘れて」


「いえ……」



 どことなくしょんぼりしたフィルが、気を取り直すように顔を上げます。



「ともかく、次の王を決めるのは神鳥であり、王ではありません。玉座を望む者が王子を暗殺するなどありえないことです。もしそんなことをすれば、神鳥は絶対にその者を王に選んだりはしないでしょう」



 ふむ。

 確かに、筋は通っているような気がしますね。



「そして今、神鳥は次の王を探しています」


「………?」


「フラウ様。どうかここだけの話にしていただきたいのですが、我が王は病に臥せっておられます」



 …………そう。

 そういうことですか。



「王はすでにお年を召しておられます。じきに次の王が選ばれるだろうとみな思っていたのですが……。王が病に臥せってもなお、神託は下っておりません」


「だから、すべての王族を国に集める必要があるのね?」


「その通りです」



 ようやく種明かしをされた気分になり、私はため息をつきました。



「そういうことだったのね。でも、安心して。私が神鳥に選ばれることはないもの」


「何故ですか?」



 私は、この物語の『悪役令嬢』だから。

 ……とは言えませんが。

 代わりに胸を張って答えます。



「私には、この国に愛している人がいるから。だから王国には行けません。神鳥フォルセインも、愛を引き裂いてまで私を王に選んだりしないはず」



 きっぱり言うと、フィルは顔を曇らせました。



「ですが王女。その愛する人とは……」


「?」


「誰のことですか?」



 まったく、何を言っているのでしょう?

 ニーナと並んで人の婚約式に乗り込んでおきながら、今さらそんなことを尋ねるだなんて。



「皇太子殿下に決まっているでしょう」



 苛立ちながら答えると、フィルはまた少し悲しい顔をして──

 次の言葉を聞いたとき、私はうなじが粟立つのを感じました。



「それは…………本当ですか?」




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