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58.このすばらしき夜を始めましょう




 その夜、シルバスティン城では盛大な晩餐会が開かれました。

 ゆうに三十人は座ることのできるテーブルには、幼い当主ティルトとその向かいにいる私を中心に、当主の母であるニーナ、シルバスティン家に縁の深い諸侯たち、なぜかちゃっかり私の左隣を占めているエリシャ、そして右隣に私より少し遅れて到着した異国の騎士フィルが着席していました。



「再びお会いできて光栄です。我が王女」



 象牙色のさらさらした髪。淡い空色の瞳。

 中性的で整った顔をこちらに向け、フィルがにこりと微笑みます。



「フィル、あなたも来てくれてありがとう。フォルセインからずっと旅続きで大変だったでしょう?」


「いいえ、こう見えて旅慣れておりますので。それに王女のいる場所こそ私の居場所。たとえ誘ってくださらなかったとしても、私はここへ来ていたでしょう」


「こほんっ」



 と、左側でわざとらしい咳払い。



「おや、そちらは……?」


「はじめまして、騎士様!」



 紹介するまでもなく、エリシャは私の頬に自分の頬を押しつけるようにして声を上げました。



「私がフラウちゃんとニコイチ、唯一にして無二の相棒、永久不滅の大親友! エリシャ=カトリアーヌですわ! フラウちゃんとはこの国でずっとずっと幸せに暮らしていく予定なので、どうぞそのつもりでお願いいたしますね!」


「はい、フォルセイン王国のフィルと申します。どうぞお見知りおきを。エリシャ殿」



 ……この感じにもだんだん慣れてきました。

 私がフォルセイン王国へ行くこと即ちバッドエンドルートと知っていますから、フィルを威嚇したくなる気持ちもわからないではありませんが。

 それにしても、涼しい顔で受け答えするフィルも肝が据わっていますね。



「みなさま、お集まりいただき感謝しますわ」



 ニーナがグラスを手に立ち上がりました。



「今宵は特別な夜です。亡き姉フィオナの娘、私の大切な姪……フラウがこの城へ帰ってきました」



 このようなときは当主が挨拶を述べるものですが、さすがにティルトにはまだ荷が重いのでしょう。



「この喜びは言葉に表せません。三歳だったフラウがフレイムローズに連れていかれたとき、どれほど寂しかったことでしょう」



 ……まるでフレイムローズ家が私を誘拐したような言いぐさですね。



「このすばらしき再会の夜を祝して乾杯しましょう。おかえりなさい、フラウ」



 ニーナの掛け声に合わせ、人々が盃を掲げます。私も表向きは笑顔でグラスを持ち上げました。

 乾杯が済むと、周囲の人々が興味津々に話しかけてきます。



「まあ、お母上にそっくり。フィオナ様の生き写しだわ……!」


「なるほど。殿下が見初めるわけだ」


「シルバスティンに戻ってきてくださるんでしょう?」


「ニーナ様が帝都に赴いて、陛下に直談判なさったとか」


「では、本当に……あなたが当主に?」



 最後に話しかけてきた男は、値踏みするような目でこちらを見ていました。

 ──やはり。

 私は《白銀》ではなく《真紅》で育った人間。

 ニーナの方針に表立って逆らうようなことはないものの、面白く思っていない者がいるのは当然ですね。

 そしてそのような者こそ、私の『味方』といえます。



「当主? 私が?」



 男をまっすぐ見返し、私は軽く鼻を鳴らしました。



「ありえません」


「……ほう」


「だって」



 つんと顎を上げ、唇の端を歪めて。

 さあ──

 とびきりの笑顔で始めましょう。

 ここが私の舞台。

 悪役令嬢フラウ=フレイムローズの舞台です。



「私には、こんな田舎暮らしは向いていませんもの」




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