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55.水銀のように揺らめいて




「着いたよ! フラウちゃんっ」



 いつの間に眠っていたのでしょう。

 興奮したエリシャの声で、ふっと目を覚まします。



「すごぉーーーーく綺麗なところね!」



 ああ。着いたのですね。

 十三年ぶりの──故郷といってもよいのでしょうか。

 《白銀》シルバスティン城。

 初代皇帝の御代に建てられた石積みの城です。黄金の麦畑を見下ろす丘のうえにそびえるその姿は、壮麗の一言に尽きますね。



「ねえねえ、どんな作戦なの?」



 耳元で楽しげに囁くエリシャ。



「作戦?」


「叔母さんにフラウちゃんを諦めさせる作戦!」


「……そうですね」



 夕焼けに包まれた尖塔を見上げ、



「秘密です」


「なんでー⁉」



 悲痛な声を無視して馬車を降りると、城門からぞろぞろと人が出てきました。銀髪はおそらく私の親戚筋、それにシルバスティン家に仕える諸侯たちのようです。

 その中央から進み出てくる銀髪の貴婦人を待ち受けます。



「よく帰ってきてくれましたね。フラウ」


「お招きに感謝します。叔母上」



 ニーナ=シルバスティン。

 今年で三十八になる叔母は、この日も堂々とした態度で私たちを迎えました。

 いかにも《白銀》らしい豊かな銀髪。力強い銀の瞳。ドレスにもたっぷりと銀糸をあしらっています。

 彼女の亡き夫、前当主は入り婿でした。その頃からシルバスティン家の実質的な支配者は彼女だったと言われています。



「《紫苑》のお嬢様もようこそ。同じ馬車でいらっしゃるなんて、二人は仲がよいのですね」


「初めまして、ニーナ様。フラウちゃんの親友のエリシャ=カトリアーヌと申します。どうぞエリシャとお呼びください」


「ええ、エリシャ。フラウのお友達は歓迎しますよ」



 ニーナがにこっと笑いながらエリシャに会釈します。

 ……自分より位の低い者に対するやり方ですね。

 シルバスティン家は爵位こそ持っていませんが、皇室分家という特別な地位にあります。初代皇帝の妹を祖とする《白銀》。だからこそ、皇帝テリオスも嘆願に耳を傾けたのでしょう。

 ──かなり強引ではありますが。

 私に今さら《白銀》を継がせようだなんて、どうしてそんな無茶を思いついたのでしょう?

 ニーナの考えがまるで理解できません。

 それを理解するのがこの旅の目的──そのひとつです。



「フラウ」



 ニーナが含みのある眼つきで私を見ました。



「顔を合わせるのは、これが初めてだと思うけれど」


「?」


「ティルト。こちらへ」



 促され、彼女の背後から小さな人影が進み出ました。

 思わず息を呑み、深くお辞儀しようとして、



「やめてくださいっ……どうか。そのままで」



 か細い声に止められます。



「えっと……初め、まして。僕は」



 顔を上げると、そこに気弱そうな瞳が揺らめいていました。

 水銀のような──美しい瞳。



「…………僕が。ティルト=シルバスティンです」




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