49.この展開はもしやあれですか?
この展開はもしや──
その婚約待った!
というやつでしょうか。
いえ。冗談はさておき。
突如現れた謎の二人のうち、一人にはわずかに見覚えがありました。
鋼のような光沢の銀髪を結ったふくよかな女性。
彼女は確か──
「叔母上?」
「ああ、フラウ。久方ぶりね。会えてうれしいわ」
ニーナ=シルバスティン。
皇室分家である《白銀》シルバスティン家。その幼い当主の母であり、私にとっては母方の叔母にあたる人物です。
私の母フィオナが最初の嫁ぎ先から出戻りしたあと、数年間彼女のもとでお世話になりました。といっても三歳くらいまでのことなので、ほとんど覚えてはおりませんが。
「本当に大きくなったこと」
そう言って近づいてくるニーナをさえぎるように、私の前に人影が立ちはだかります。
驚いたことに、それはお兄様でした。
「妹に何の御用ですか? ニーナ殿」
「……フレイムローズ公」
ゆったりと微笑みを浮かべていたニーナが、即座に険のある眼つきに変わります。
「わたくしに何の相談もなく、フラウと殿下の婚約を進めましたね」
「あなたに相談する必要などない」
「いいえ、大いにありますとも。フラウは我がシルバスティン家の血筋なのですよ」
ニーナはお兄様からツンと顔をそむけ、玉座に向き直って深々とひれ伏しました。
「慈悲深き皇帝陛下。先だって申し上げましたとおり、フラウを当家に迎え入れたいと考えております。しかるべき婿を迎え、シルバスティン家の当主となってもらうために」
「………⁉」
今、なんと言いました?
私が……シルバステイン家の当主?
突然の事態に頭がついていきません。
それに、お兄様のご様子もおかしい。いつも冷静沈着なお兄様が、見たこともないほど苛立っていらっしゃるようです。
「な、何の話だ?」
隣のユリアスがようやく声を上げました。
ええ、私もまったく同じ気持ちです。
「申し訳ありません。皇太子殿下」
ニーナが振り返り、今度はユリアスの前にひざを折りました。
「聞き違いかもしれぬが、フラウに婿を迎えさせると言ったな。まさか私に、フラウとの婚約を取りやめよとでもいうのか?」
「心よりお詫び申し上げます、殿下。しかしこれには《白銀》シルバスティン家の存続がかかっているのでございます」
「何を馬鹿な……!」
「陛下の深大なる御心により、ご猶予をいただけることになりました」
それを聞いたユリアスがぐっと口ごもりました。さすがの彼も父皇帝に逆らうことはできません。
私は周囲を見渡しながら静かに呼吸を整えます。
皇帝、皇太子、シルバスティン家、お兄様。
その中あって、自分の立ち位置を間違うことは許されません。
慎重に……ならなければ。
「フラウよ」
低い声。
うろたえる息子など目に入っていないかのように、表情の変わらないテリオスが告げました。
「もう一人そなたに客人がおるぞ」
そう。──もう一人。
今度こそまったく見知らぬ人物が。
その人物は私とさほど年の変わらぬ若者で、中肉中背の体にまばゆい白の甲冑をまとっています。さらさらした象牙色の短髪にアイスブルーの瞳。整った顔は中性的で、神秘的な雰囲気を漂わせています。
その若い騎士は、皇帝の言葉を合図に私のほうへ進み出てきました。
ニーナが眉を上げながら道をあけ、私の前に立つお兄様は動きません。
「………………」
騎士は立ち止まると、お兄様の肩越しに私をじっと見つめました。
その淡い水色の瞳になぜか懐かしさのようなものを覚えます。
さっと白のマントを払い、若い騎士はその場にひざまずきました。
「………長らく」
男とも女ともつかない声。
「貴女をお探し申し上げていました」
「……私、を?」
「はい」
顔を上げ、澄みきった瞳で私を見つめながら言います。
「私は貴女を、我が国フォルセインの王女としてお迎えするため──ここに参上しました」




