47.好きに違いはありますか?
ずしり、と胃の中が重くなるのを感じます。
何か言わなければ。
おかしな空気になる前に。
アイラにあれほど直截に指摘されたときも、そうやって切り抜けることができたのだから。
弟がこれ以上、真実に近づく前に。
何か。
言わなきゃ。
「あの夜、見たんです」
うつろな、いっそ眠たげにさえ見える目つきで弟が言いました。
「執務室で兄上と口づけを」
気がつけば、私はリオンを押し倒して馬乗りになっていました。
両手で細い喉元を締め上げます。
見られた。
見られていた。
よりにもよって弟に。
「……!」
殺さなきゃ。
この国で近親恋愛は死刑。
他人が当て推量で物を言う程度であればしらばくれていればいい。ですが、家族から告発されれば罪は免れない。
私なら構いません。
しかし、お兄様に害が及ぶことだけは──絶対に。
リオンは不気味なほど無抵抗でした。
だらりと四肢を投げ出したまま、黙って私を見上げています。
まるで人形の首を絞めているよう。
そう、これは人形。
きれいなよくできたお人形。
「……っ」
ああ、人形の顔に水滴がついています。
どうしてでしょう。
人形は泣かないはずなのに。
ほら。やっぱり人形は泣いてなんかいません。
それでも、ぽたりぽたりと。水滴が。
たくさん。
落ちて──
「…………」
力が抜けていきます。
リオンの首を離し、尻もちをつくようにベッドの上を後ずさりました。
それまで人形のように動かなかったリオンが体を折り、激しく咳込みはじめます。
私は震える両手を上げ、自分の濡れた頬に添わせてぴたりと覆いました。
「……………フラウ姉様」
かすれた声。
リオンがよろけながら起き上がり、紅い瞳でこちらを見ているのを感じます。
私はただ顔を覆ってうつむいていました。
「僕は……姉様を責めたりしません」
「………」
「兄上とのことを、おかしいとも思いません」
「………」
「僕も」
彼の声が、そこで少しだけ震えました。
「姉様を愛してるから」
……エリシャの言った通り。
きつく唇を嚙みしめたあと、私はどうにか声を絞り出しました。
「私たちは、血がつながっているのよ」
「血がつながっていたら好きになっちゃいけないんですか。血がつながっていなくても禁じられているのに。僕と姉様と、何が違うんですか」
口を開きかけ、閉じます。
どう答えていいか──わかりません。
ただ、彼の行動が原作からかけ離れていることはわかります。
それを引き起こしたのが自分だということも。
「あなたは私に……どうしてほしいの」
「何も望みません」
「……何も?」
「僕を愛してほしいなんて言いません。姉様の気持ちは、姉様だけのものだから」
「………」
「姉様が兄上のことを想いながら、兄上のために皇太子殿下に嫁ぐことも……正しいとは思わないけど、止めません。でも」
言いながら拳を握りしめ、
「もし姉様に悲しい思いをさせたら……そのときは、僕は兄上を絶対に許さない」
呆然とする私に向かって、彼は最後に少し、微笑んだようでした。




