45.誰も死なせたりしません
私は言葉の意味をつかみかねていました。
リオンが、私を?
「……懐いてはいますけれど」
「ここまで言ったら、そういう意味じゃないってわかってるでしょ」
「ですが、リオンと私は」
同じシルバスティン家出身の母の血を引く──
「血のつながった姉弟ですよ?」
「そうね」
エリシャがあっさりと肯定します。
「彼もこの時点ではまだ、自分の気持ちがわかってないんだと思う……。だから一時はヒロインの私に恋をするんだけど、あとになって気がつくの。『違ったんだ』って。『ヒロインに姉を重ねていただけで、本当に愛しているのは姉のほう。本当に救いたかったのは、兄の道具にされている姉だったんだ』って」
「お兄様が処刑されてからそのことに気がつく、ということ?」
「うん。精神崩壊してしまったフラウちゃんを見て……ね」
そして自ら命を絶つ。
……信じられません。
あの無邪気な弟に、そんな運命が待ち受けているなんて。
それに私はずっと、お兄様が処刑されるのはリオンがエリシャに恋するせいだと思っていました。
お兄様を死に追いやるリオン。
その元凶となるエリシャ。
彼らのことが憎かった。
でも、彼女の話が本当なら。
お兄様が処刑される元凶は──
「フラウちゃん」
エリシャの声で我に返り、私は顔を上げました。
宝石のように澄みんだ紫の瞳が、まっすぐこちらを見つめています。
「どうして私たちが転生したと思う?」
「………?」
「もちろん、運命を変えるためよ。それがファンとしての使命だもの。リオンきゅんもノイン様も死なせない。私たちの大好きな物語を、あんな暗いお話になんかさせない!」
ぐっと身を乗り出し、エリシャは鼻息荒く言いました。
「ついでに戦争だって阻止してみせるし……!」
「戦争?」
またもや予想外の単語が飛び出し、ぎょっとして聞き返します。
エリシャは一瞬止まってから「あ、うん」と軽くうなずきました。
「最新刊の最後で、帝国が隣国との戦争に突入しちゃうのよね」
……なんだか、さらっとものすごいことを言っているような気がしますが。
お兄様が処刑されたあとにそんな展開があったなんて。
なぜ転生前に最後まで読んでおかなかったのか、後悔してもしきれませんね。
「とにかく」
再び身を乗り出し、エリシャが私の両手を握りました。
「フラウちゃん、私は婚約反対よ。NO政略結婚! このままじゃフラウちゃんが政治の道具になっちゃう。そんなのだめ。リオンきゅんも悲しむ……!」
リオンの悲しみが深くなれば、お兄様を告発するルートに入ってしまう。
彼女が言いたいのはそういうことでしょう。
思い返せば、エリシャはこれまで「本当にユリアスが好きなのか」としつこいくらい尋ねてきました。私が望まぬ結婚をすることで、悲劇に近づくのを恐れていたのでしょう。
「よくわかりました」
エリシャのお供であるカトリアーヌ家の侍女が近づいてくるのが見えました。カトリアーヌ候と約束した時間が終わり、もう帰らなくてはならないのでしょう。
エリシャの手を握り返します。
「リオンのことは私に任せてください」
不安そうに瞳を震わせるエリシャに、私は微笑みました。
わかってしまえば簡単なこと。
誰も死なせない。
全員生存ルートのために。
私が『幸せな結婚』をするのだと、彼に思い込ませればいいのです。




