28.ヒロインが断罪されるようです
エリシャ=カトリアーヌは城の地下牢に入っている──
じいからそう聞きました。
現場に居合わせたユリアスが命じたのだそうです。
「カトリアーヌ侯爵令嬢がフレイムローズ公爵令嬢を毒殺しようとした。この事実に疑念を挟む余地はない」
と。
エリシャはその場で近衛騎士に捕らえられて連行され、倒れた私は迅速にフレイムローズ家へ運ばれ手当を受けました。
カトリアーヌ家も黙っていたわけではありません。
当のエリシャは毒殺を否定し、カトリアーヌ家当主である彼女の父もまた抗議の声を上げました。
「フラウ嬢が倒れたことはまことに気の毒であるが、それと娘に関係があるとは思えない。そもそも何者かが毒殺を謀ったと決めつけるのは早計で、そうだったとして、必ずしも娘が謀ったものとは限らない」
《紫苑》カトリアーヌ家は名門であるだけでなく、帝国内でも有数の資産を持つ大貴族。その令嬢が《真紅》フレイムローズ家の令嬢を毒殺しようとしたとなれば、ただ事ではありません。
皇帝はすぐに現場を調査するよう命じました。無実を主張するカトリアーヌ侯爵はこれを進んで受け入れ、何も見つからなければ娘を解放してほしいと願い出ます。
が──
その願いはエリシャの部屋に隠されていた小瓶によって砕かれました。
瓶の中に入っていたのは、クロムラサキソウの抽出液。
ほんの数滴で人を死に至らしめる猛毒です。
これにより、エリシャの容疑は決定的なものとなりました。
そして彼女の処罰を決めるため、お兄様をはじめとした《帝国七血族》が王宮へと集められたのです。
お兄様が屋敷に戻られたのは、夜半も過ぎてからでした。
「はい……フラウお嬢様はお休みになられて……まだお体が……」
部屋の外から漏れ聞こえるミアの声。
私はぱちりと目を開き、ベッドから起き上がりました。
「ミア。起きているわ」
外の声がぴたりとやみます。
沈黙のあとに扉が開き、入ってきたのはお兄様でした。
帰ってすぐに私の部屋へいらっしゃったのでしょう。まだ着替えもされておらず正装のままです。
お兄様はベッドのそばまで来ると、黒い手袋のうえに薔薇の家紋が入った当主の指輪をつけた手を、そっと私に伸ばしました。
「……平気か」
氷のように冷たい声。
親指の先は私の顎に触れ、残りの指が首筋を包んでいます。
その指から、私はお兄様の静かな怒りを感じました。
「はい」
呆然と見上げながらうなずきます。
お兄様もうなずき、手を離してベッド脇の椅子に腰を下ろしました。
「血族会議はどうなったのですか?」
「何も決まってはいない。まだ全員が集まったわけではないからな」
昨日から一睡もしていないはずのお兄様の顔に疲労の影は見当たりません。
彫刻のように美しく冷たい顔で私を見つめています。
「エメル家はカトリアーヌ家に慈悲をかけるよう陛下に説いている。アズール家は中立の立場を取り、毒の成分を詳しく分析するべきだと。ブラックウィンド家は殿下の味方についている。そして殿下は──」
そこで一瞬目を閉じ、
「エリシャ=カトリアーヌの即刻処刑を主張している」
そう言って、お兄様は再び私を見据えました。
その瞳の冷たさは夢で見たときよりも鋭く研ぎ澄まされ、ほとんど凍りついているようにすら見えます。
口の中にじわりと鉄の味がよみがえってくるような気がしました。
「リオンから伝言は聞いているな」
「……はい。お兄様」
「では改めて問おう」
声は断ち切るように響きました。
「なぜだ」
その声に向かって、私は自分の首を差し出すように顎を上げます。
「なぜこのようなことをした?」
……ああ、やはり。
お兄様にはわかっていらっしゃるのですね。
そのことが恐ろしく、そして同時に喜びでもありました。
「私は」
そうして私の口からこぼれた声は、自分でもぞっとするほど冷たくて。
「彼女に……消えてほしくて」
そうです。
私は──
自分で毒を飲みました。




