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100/173

100.監禁されたのですが?




「どうぞ安心してください」



 歌うように響く声。



「労働には休息が必要。そのくらいちゃんとわかっていますから。私と一緒にいるのがあなたの仕事なら、お休みの日は私から解放されるべき。そうですよね?」



 慈愛に満ちた微笑み。



「ですから、今日は……」



 フィーは言いながら大きく両手を広げてみせました。



「こちらで存分にくつろいでください!」



 エメル邸の娯楽室。

 部屋の中央に据えられた大きな玉突き台。それを囲むようにチェスや、種々のボードゲーム。壁の書棚には詩と小説。窓際のテーブルには軽食と茶菓子が並び、飲み物は紅茶にワイン、年代物のブランデーまで用意されています。



「ここにあるものはみーんな自由に使ってくださいね。さあ、遠慮しないで。休日を満喫してください!」


「は………?」


「あっ。私がいつまでもここにいたらくつろげませんよね。ごめんなさい、私ったら気が利かなくて」


「いえ……あの……?」



 呆然とする私に背を向け、フィーは戸口へ向かいます。

 そのあとを追いかけようとして、



「だめ!」



 鋭く制止されました。



「今日はお休みでしょう? ローザはここでゆっくりしてください」


「しかし──」


「お取込み中失礼いたします」



 と、部屋の外から侍従長が声をかけてきました。



「公爵様からフィーお嬢様へ、贈り物が届いております。いかがいたしますか?」


「まあ!」



 フィーがぱっと顔を輝かせます。

 私も息を呑みました。

 お兄様からの贈り物?

 それは──

 例の──もの?



「待ちわびていました! すぐに私の書斎へ運んでください」


「かしこまりました」


「それじゃローザ。休日を楽しんでくださいね」



 しまった。

 お兄様のことに気を取られて──



「待っ……」



 追いすがろうとする私の鼻先でバタンと扉が閉じられました。

 すかさずドアノブをひねります。が。

 ガチャ。

 ガチャガチャ。

 ガチャガチャ、ガチャ!



「……⁉」



 ああ、嘘でしょう?

 開きません。

 これって──もしかして──

 監禁、された?



「お嬢様! ここを開けてください!」



 必死に扉を叩きます。



「誰か! お願い! ここから出して!」



 おかしい。

 誰も様子を見に来ないなんて。

 少なくとも侍従長は気づいていたはずなのに。



「くっ」



 痛む拳を下ろします。

 フィーが使用人たちにあらかじめ指示を与えているのかもしれません。たとえ私が泣こうが喚こうが、ここから決して出さないようにと。

 全身に鳥肌が立ちました。


 ……あの女。完全にしてやられた。


 目を閉じ、深呼吸します。

 いいでしょう。認めます。

 私は油断していました。

 というより、状況に吞まれていた。

 ローザというメイドの少女を演じ続けることで、いつのまにかその役に意識を引っぱられていた。そのせいでフィーに主導権を奪われ、流されるままここへ来て、閉じ込められてしまった。

 ミイラ取りがミイラになるとはこのことですね。

 いい加減、本来の自分を取り戻さなくては。

 目を開き、顔を上げます。

 私はフラウ=フレイムローズ。

 必ずここを脱出して、お兄様との休日を心ゆくまで満喫させていただきます。




ついに100話まできましたー!

ここまで書き続けられたのは読者様のおかげです。

これからもよろしくお願いいたします!

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