100.監禁されたのですが?
「どうぞ安心してください」
歌うように響く声。
「労働には休息が必要。そのくらいちゃんとわかっていますから。私と一緒にいるのがあなたの仕事なら、お休みの日は私から解放されるべき。そうですよね?」
慈愛に満ちた微笑み。
「ですから、今日は……」
フィーは言いながら大きく両手を広げてみせました。
「こちらで存分にくつろいでください!」
エメル邸の娯楽室。
部屋の中央に据えられた大きな玉突き台。それを囲むようにチェスや、種々のボードゲーム。壁の書棚には詩と小説。窓際のテーブルには軽食と茶菓子が並び、飲み物は紅茶にワイン、年代物のブランデーまで用意されています。
「ここにあるものはみーんな自由に使ってくださいね。さあ、遠慮しないで。休日を満喫してください!」
「は………?」
「あっ。私がいつまでもここにいたらくつろげませんよね。ごめんなさい、私ったら気が利かなくて」
「いえ……あの……?」
呆然とする私に背を向け、フィーは戸口へ向かいます。
そのあとを追いかけようとして、
「だめ!」
鋭く制止されました。
「今日はお休みでしょう? ローザはここでゆっくりしてください」
「しかし──」
「お取込み中失礼いたします」
と、部屋の外から侍従長が声をかけてきました。
「公爵様からフィーお嬢様へ、贈り物が届いております。いかがいたしますか?」
「まあ!」
フィーがぱっと顔を輝かせます。
私も息を呑みました。
お兄様からの贈り物?
それは──
例の──もの?
「待ちわびていました! すぐに私の書斎へ運んでください」
「かしこまりました」
「それじゃローザ。休日を楽しんでくださいね」
しまった。
お兄様のことに気を取られて──
「待っ……」
追いすがろうとする私の鼻先でバタンと扉が閉じられました。
すかさずドアノブをひねります。が。
ガチャ。
ガチャガチャ。
ガチャガチャ、ガチャ!
「……⁉」
ああ、嘘でしょう?
開きません。
これって──もしかして──
監禁、された?
「お嬢様! ここを開けてください!」
必死に扉を叩きます。
「誰か! お願い! ここから出して!」
おかしい。
誰も様子を見に来ないなんて。
少なくとも侍従長は気づいていたはずなのに。
「くっ」
痛む拳を下ろします。
フィーが使用人たちにあらかじめ指示を与えているのかもしれません。たとえ私が泣こうが喚こうが、ここから決して出さないようにと。
全身に鳥肌が立ちました。
……あの女。完全にしてやられた。
目を閉じ、深呼吸します。
いいでしょう。認めます。
私は油断していました。
というより、状況に吞まれていた。
ローザというメイドの少女を演じ続けることで、いつのまにかその役に意識を引っぱられていた。そのせいでフィーに主導権を奪われ、流されるままここへ来て、閉じ込められてしまった。
ミイラ取りがミイラになるとはこのことですね。
いい加減、本来の自分を取り戻さなくては。
目を開き、顔を上げます。
私はフラウ=フレイムローズ。
必ずここを脱出して、お兄様との休日を心ゆくまで満喫させていただきます。
ついに100話まできましたー!
ここまで書き続けられたのは読者様のおかげです。
これからもよろしくお願いいたします!




