07 楽しいですわッ
「さあチャチャッと済ませて始めますわッ」
チャチャッと済ますのは三人を縛って馬車に詰める事であろう。では何を始めるのかは怖くて聞けないトールだ。そもそもなぜマリーは睡眠薬が効いていないのだろうか?だがマリーであれば薬に耐性があって効果が遅い可能性は十分にあった。
「……ええ、始めますか」
そういってロープで男三人を縛り上げて馬車に積み込んでいく。トールとしてはマリーの睡眠薬が効くまでチンタラ作業をして時間を稼ぎたかったがマリーが手伝いを申し出てチャッチャと済ませてしまった。
「終わりましたわッ!だから始めますわッ!」
そう言うとマリーはトールの手をつかんで引っ張って小屋へと入っていきそのままベッドに押し倒した。
「マ、マリー様、少々お待ちをっ!少しトイレに行かせてもらえませんか!?」
「漏らせばいいですわッ!」
「……ッ!?」
まさかの時間稼ぎすら封じられて絶句する。いよいよもってマリーの表情は恍惚としておりトールを押さえつける腕は掴んで離さない。いやだいやだと暴れてみるも全くもって振りほどけない。
「……じ、実はですね!その!大きい方ですのでここではちょっと--」
言い切る前に口を塞がれてしまう。サブミッションでも極められているかのようにまったく身動きの取れない体をなんとか動かそうと藻掻くも期待した効果は得られず、なんならマリーを喜ばせるまであった。
どれくらい経っただろうか。ようやく塞がれた口が解放される。
「ぷはぁあ!はあはあ……」
「やっぱりトールさんは良いですわッ!」
あるいは時間稼ぎをするならばあのままで居たほうがよかったのだろうか。だがこうなれば取れる手段は限られる。トールは最後の手段に訴えるべく行動に移した。
「マリー様……実はお願いしたい事が……私はその、なんていうか相手を縛った方が燃えるのです。是非マリー様を縛らせてもらえないでしょうか?」
もうあからさまである。トールは縛って馬車にポイする気満々だ。もちろん縛るにあたって力が入り辛い縛り方に加えて使うロープも特注品だ。これさえ極めてしまえばマリーといえども抜け出すのは不可能である。だが嘘とは言え自分の特殊性癖を語るのは辛く、トールの男としての自尊心がぐちゅぐちゅに潰されていくのを感じた。
だからだろうか。そんなトールに感銘を受けたマリーは二言返事で受け入れた。
「なんか……楽しそうですわッ!」
「ではお待ちを……」
用意していた特注ロープを取ってくるとさっそくマリーを縛っていく。もちろん睡眠薬の効果を期待してチンタラとだ。だが、まあそんな意図などなくても慣れない作業でチンタラしてしまうのだが……。だが、そんな焦らし上手な面がマリーを一層と高ぶらせていたのは悲しい誤算であっただろう。
「な、なんかそのっ!……こ、こんなの初めてですわッ……!」
最後に全身に巻き付けたロープをきつく縛ると--マリーにしては珍しく苦し気な声を吐き出した。だが既に身動きの取れない状態に雁字搦めになったマリーはしばらく藻掻くと呼気を荒くして倒れた。ここでようやく睡眠薬が効いたようである。だが……そんなマリーの様子にトールは罪悪感を覚えてしまった。自分はいったい何をやっているのだろう。見た目だけなら美少女であるマリーになぜこんな事をしているのか、なぜこんな事までしなければならないのか疑問を覚えてしまった。
それでも勅令に逆らえないトールは苦々し気にマリーを担いで馬車に乗せた。そしてそのまま帝都へ向けて馬車を走らせた。