05 使者が来ましたわッ
「なにか御用でしょうか?」
小屋にたどり着いたトールに向かって男は厳しい視線を向けてきた。それを耳にしたのか小屋の横で蒔き割りをしていた男二人もなんだなんだとやってくる。いずれもトールを目にするとその表情は険しくなった。
(やはり警戒されているなあ)
当然と言えば当然だが、彼らは逃亡中の身なので警戒心は強いだろう。だが、それにしては派手な行動を慎む様子のないマリーを諫める事もない。いや、出来ないのであろうか。だとすればマリーを言い含めることが出来れば目的の一つは達成であろう。
「はい。実は私は帝都からマリー様と国の間を仲介するために派遣されて参りましたトールと申します。そちらも現状にはお困りだと存じますのでまずはマリー様とお話をさせていただけないかと」
ガタンッ
小屋の中から物が倒れる音が聞こえた。だが直ぐに出てくる様子はない。少し悩むも--
「…………マリー様は御留守でしょうか?それならば出直してまいりますが」
好都合とばかりに厄介事を後回しにした。一日遅くしたところで何が変わるわけでもないが天変地異などが突然起きてお役目どころではなくなるかもしれないではないかと一縷の望みを託しての撤退である。
「居りますわッ!あなたは……えーとトールさんですわッ!」
少しソワソワしながらも身だしなみの整った様子でのご登場だ。これにはトールはガッカリである。小屋から背を向きかけていた姿勢をマリーに向きなおした。
「あ、はい。覚えて頂いており光栄で御座います……。それでですね。出来れば皇帝陛下からのご意向などをお伝えさせていただきたいのですが……よろしいでしょうか?」
「ようやく陛下もご理解したようね。伺いますわッ!」
「出来ればマリー様だけに内密にお伝えしなければならないのです。勿論マリー様があとからお伝えする分には問題はないのですが--」「いいですわッ!」
かなり食い気味での了承を頂いた。だが周りを見回す。
「お、お嬢様!?危険で御座います!この男は信用できるか分からないのですよ!まずは我々が事情を聞いて……」
「そうだぜ。いきなり二人っきりにさせるのは……も、勿論マリーの事は信じてるんだぜ!?」
「ねえマリーちゃん、ここでの暮らしに不満があるのかもしれないけど、僕らもずっとついてるしもう少し慎重に考えてみようよ?ね」
「ダメですわッ」
もちろん刹那的に生きているマリーがこの程度で前言を翻す訳がないのは把握していた。予想通りの回答に、だがそこに嬉しさは微塵もないトールだ。
「貴方達はとりあえず席を外していなさいですわッ!」
「くっ……しかし余り長くお二人にするわけには……」
「そうだぜマリー、せめて一時間……いや三十分にしてくれッ」
「うん、そうだよ。そうしよ?」
「……まあいいですわっ!では三十分間は村の外に出ていなさい。その前に帰ってきたら……ぶん殴りますわッ!!」
マリーが本気で殴れば人間など一瞬で消滅するだろう。その言葉を発する雰囲気からもある程度の本気具合を感じ取り三人は戦慄した。マリーの事を熟知している三人はしぶしぶとではあるが村の外へと足を向けていく。
「それではトールさん歓迎いたしますわッ!どうぞ中にお入りくださいですわッ!」
マリーの後に続くようにトールは小屋の中に入っていった。そこは外観からも想像した通りの狭さであった。別に魔法で空間が拡張されている訳でもスペースを最大限に活用した内装が施されている訳でもない。なんなら想像以上に狭くて汚くて……。
ベッドが二つ並んでいたらもうテーブルを置くスペースもないのでマリーが腰かけたのは当然の様にベッドである。ニコニコとしながらポンポンと空いてる隣を叩いてみせた。