03 追放ですわッ
「まず貴様達には巨獣を帝都へ誘因した嫌疑が掛けられておる」
「ッ……!そ、そんなっ!」
思わず身を乗り出すマリーに衛兵たちは隊形を扇状へ変化させ槍でマリーの動きを制した。
「「「!?」」」
『デルフィニウムの花』のパーティメンバー三人はどうしてそんな嫌疑が掛けられているのか皆目見当がつかなかった。いや心当たりはある。出る杭は打たれる……という事なのだろう。人から嫉妬を買った結果としてあらぬ疑いを掛けられてしまったのだ!
「ま、待てよッ!そんなわけ、あるわけないだろお!」
パーティメンバーの一人がカッとなって否定の言葉を投げるも--
「黙れ!貴様に発言は許されておらん!」
ガコッ
衛兵からの石突で殴られ膝を屈する。その顔を苦痛に歪ませて嗚咽をもらした。
「グッ……うぅ!」
「やめなさいですわっ!」
マリーは立ち上がってパーティメンバーと衛兵の間に入って両手を広げる。だがマリー達に向ける衛兵からの視線は非常に厳しい。
「どうしてこのような事をするのですわッ!?私達は帝都の平和のために戦っていたといいますのにっ!」
必死に無実を訴えようとするも皇帝から返事は冷たい。冒険者協会支部長から訴えを聞く前からマリーの悪評はさんざん耳にしていた。なんなら王城でも我が物顔でやってくるマリーの言動を直接見せられた事も数えきれないくらいである。
「……それならば、なぜ帝都で戦っておるのじゃ……?」
「いけませんのッ!?」
「貴様ならば魔領の奥地で仕留められるであろうッ!?」
皇帝にも積もる思いがあったのだろう威厳も糞もなく怒鳴りつけてしまう。
「はぁはぁ、兎も角であるが一定の功績は認めておる。それを差し引いて貴様たち『デルフィニウムの花』は我が帝都から追放する事に決定した!」
流石に公爵令嬢をそのまま国外に放逐してしまえば他国で暴れるに決まっている。そうなれば外交問題になる可能性があったので苦渋の決断であった。
「なんでですのッ!?帝都で戦ったとはいえ壊したのは貧民街の小屋数個で御座いましょう?私ならば危険など御座いませんわッ!!」
マリーからの言葉は帝都に誘引した事を否定する内容ではなかった。全員の懸念が確信に変わった。いや既に99%程は確信に手を掛けてはいたが遂に登り切った形である。
「誰が貴様の心配などするものかッ!!我が国民が危険にさらされたのじゃッ!!」
皇帝は玉座のひじ掛けを叩きながら叫ぶ。マリーが巨獣を誘因してくる場所は決まってスラムや低所得層が集まる区画であった。その為か最初の方はまぁいいかと見過ごされていたが今ではスラム住民を中心に暴動の気配すら漂わせていた。またマリーの行動がどんどんエスカレートしていき中級、上級区画にも被害が出てくるのではないかという漠然とした不安がくすぶっており早くなんとかしろと各方面からのプレッシャーを一身に受けている皇帝だ。
「もう決まった事である!貴様らの流刑先は北海の奥にある孤島と既に決まっておる!!そこに転がっておる男達と一緒にそこで盛っておれッ!!」
勿論最初はパーティメンバーを一緒に送るのには反対意見が多かった。処刑するべきであると。だが、無類の強さを誇るマリーを押さえつける戦力に不安を感じた皇帝や大臣達は人質としての役割を期待しての結果であった。
「な、納得できませんわッ!!魔獣を倒せば皆も喜んでましてよッ!?あの程度で危険を感じるなんて軟弱ですわッ大袈裟ですわッッ!!」
「そ、そうです!それに死者は出ていないのですからあんな壊れた小屋立て直せば済むでしょう!?」
「まったくだぜッ!神経質すぎるだろッ!」
「マ、マリーちゃんがいなくなったら誰が巨獣をた、倒すんですか!被害を最小限に抑えた結果じゃないですか!?」
「この様な仕打ち必ず後悔しますわよッ!」
マリーの背中に守られている三人も安全を確認してからの口は軽快だ。マリーと一緒ならば孤島もいいなと考えもした三人であるが、やはり名誉や権威も捨てがたい。全部手に入るならばそちらの方がいいに決まっている。そもそも三人は巨獣を帝都に引き込んだ話などマリーから聞いておらず信じてもいなかった。
だからだろう嫉妬からの謀略と信じて疑っていないのでマリーならば説得できるだろうと楽観視している三人だ。真剣に訴えているようでどこか余裕を持っているようにも見える薄ら笑いを浮かべる様はおおいに見ている人の印象を損ねてしまう。
「さっさと縛って連れてゆけッ!!」
その言葉に衛兵達は動こうとするも……マリーの反応が早かった。
「墳ッ!!」
ロープを取り出す者、槍を構える者、それらが初動を開始する直前の隙にマリーはラリアットで薙ぎ払う。そしてマリーは直ぐさま三人を担ぎあげて逃亡を開始した。その脚力は大人三人を担いでいるとは思えない程であり一瞬で玉座の間から姿を消してしまった。
……いくらマリーが強いと言っても三人を守りながら勝てる見込みはない。また、公爵令嬢としての地位も帝国ありきで保証されているものだ。それらを壊してまで好きにしようとまでは思わない良識がマリーには残されていた。その内に手に負えない巨獣が帝都に現れれば手のひらを返してマリーに許しを請いにくるに決まっているのだ。
「だけどッ!絶対に許しませんわッ!被害が出てから助けてくれと言ってももう遅いのですわッ!!」
マリーは美しい顔を屈辱に歪ませながら三人を担いで帝都から落ち延びていった。