02 喝采を受けますわッ
「またやりおったかッ!あの馬鹿共がッ!!」
けたたましく机を殴りつけた冒険者協会の支部長は大きく息を吸いなおしてオフィスチェアの背もたれに寄り掛かった。だがその表情からは憤怒が色濃く残されている。
今回のような顛末は一度や二度ではない。マリー達はパーティ『デルフィニウムの花』を結成してから半年程であるが既に同じような討伐を五回繰り返していた。それは異常であった。通常は魔領から出てこないような大物がなぜか帝都に現れては『デルフィニウムの花』によって討伐されるのである。
未だ証拠はつかめていないがマリー達が魔領から大物を帝都まで引き連れて衆目のなかで討伐せしめるというマッチポンプの疑いがかけられていたのである。なぜそのような疑いだけで証拠がつかめないかといえば魔領奥深くまで追跡できる実力者などそうそういない的なアレであった。
冒険者協会としては認めたくはないがマリーの個人戦闘能力は国内随一であり並ぶものがいないのである。その為、魔領内へ追跡者を送っても移動速度が全く異なり毎回撒かれてしまうのだ。そしてマリーは帝都まで巨獣を誘いこんだ後に平然と「闘っていたら逃げられてしまったわッ!」というのだから支部長の苦労もさっせるであろう。
本来であれば疑われている時点で強制的に罰する事も可能であったがそのマリーの実力と、背後の公爵家という血筋が二の足を踏ませている。
「……こうなれば陛下にお願いするしかあるまい」
◆
マリーはパーティメンバーと供に王城へと呼び出されていた。マリーにとっては王城など何度も来ている社交場であり、なんなら一昨日も遊びに来ていて皇子達相手に自身の英雄譚を語り聞かせていた。その場でも近々ビッグな事をすると自慢していたマリーである。
だがパーティメンバーは皆平民出身でありおっかなびっくりしつつも虚勢を這って威嚇気味の視線を周囲に振りまいていた。そこには普段とは異なり着慣れていない上等な正装でめかし込んでいる自分達が上級国民達の目にどのように映っているのかという不安の表れだったのかもしれない。自分達もマリーと同様に名誉ある『デルフィニウムの花』の一員として舐められるわけにはいかなかった。
「我々の活動もついに陛下のお耳に入れる程になったか」
「ふ、ふんッ!当然だ!今まで何匹の魔獣を倒してきたと思ってるんだ!?これでも遅いくらいだぜ!」
「もうっ!そんな大声で言わなくたって僕たちの活躍はみんなの耳に入ってるよ!」
そんな三人をマリーは窘める。
「ほら貴方達!私達は帝都一のパーティなのですから堂々としていればいいのですわッ!」
黙って私の背中に付いて来いと言わんばかりに肩で風を切って陛下のおわす玉座の間へと進んでいく。そんなマリーに感化された三人の表情には自信が漲っていた。
衛兵が扉を開けるとズラリと衛兵が並んでおり大臣達は少し離れた位置に並んで不安げな表情を浮かべている。その異様な緊張感に包まれた雰囲気にもマリーはなんら構った様子もなくズケズケと進んでいった。
また三人はマリーの背中しか見えておらずやはり衛兵達に気を配ることはなかった。既に衛兵達とは住んでいるステージが違うのだ。なんなら陛下からお褒めの言葉と褒賞を授かる際に感嘆の声を漏らしてくれる装置としか思っていなかった。
玉座の間の中央辺りまで進んだマリーは立ち止まり、一度だけ周囲を見渡し表情を曇らせた。だが直ぐに片膝をついて臣下の礼をとると慌てて三人も見よう見まねで礼をする。
「………………よく参ったの。面を上げよ」
たっぷりと溜めてからのお許しがでるとマリーは勢いよく顔を上げて快活に答えた。
「ハイッ!ですわッ!!」
一瞬衛兵はビクリと緊張が走ったがなんとか踏みとどまった。
またパーティメンバー三人は発言を許可されていない。事前にそう伝えられているので未だに頭は下げたままである。
「……今回呼び出したのは他でもない、昨日の巨獣に関する沙汰である」
そんな事はマリーには分かっていた。当然後ろに控える三人も同様である。さっさと本題を切り出しなさいよと思うが我慢である。物事には順序がある。マリーはすでに喝采を受ける準備は万端であるが喝采する方はどうであろうか?彼ら喝采者の為にもまずは溜めに溜めて焦らしてそして最後に気持ちよく全てを吐き出すように喝采させる為にも少しくらいは待ってあげるのもマリーとしてはやぶさかではなかった。令嬢としても一流のマリーの中で良い女というのはそうゆうものであった。