Episode 3
桜希はこの世界の男女比が前世と異なることに気付いておらず、女の子が甘やかされ大事にされることが当たり前だと知らない。
桜希は自身の前世をはっきりと思い出せないが、その世界の常識や知識はあるので人生に於いての常識は同じだと思っている。けれどそれは桜希の思い違いで実際は異なっている。
桜希の前世は今世でいうところの近代文明であった。貴族社会で桜希は覚えていなくとも彼女は平民で聖女であった。平民ながら強い魔力を持ったことを国の中枢を担う貴族たちからの反感を買ったのだ。それに伴い国民の恐怖心を煽り結果的に決して長いとは言えない人生の幕が下りたのだった。
桜希は自分の記憶を思い出そうとしたことがあった。けれど毎回霧がかかったように何も思い出せなかった。唯一鮮明に覚えていたことは自分が魔女と呼ばれていたことだった。
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拓海視点
僕には弟と妹がいる。弟の隼人は僕の2歳下で妹の桜希は8歳下だ。三人とも父親が違うけれど仲は悪くないように思う。隼人と僕は同じ学校に通っているし、小さい頃から一緒にいるから兄弟で友達って感じがする。
僕が7歳になった年に母さんに赤ちゃんができた事を教えてもらった。既に弟が一人いたからきょうだいが増えることはそこまで重要なことじゃなかった。けれど母さんが幸せそうだったから嬉しく思ったのを覚えている。
僕の8歳の誕生日に母さんが会いに来てくれた。母さんは基本今大路の家に住んでいるが父さんの誕生日や記念日、僕の誕生日などの日は一緒に過ごしてくれる。
そんな僕の誕生日に母さんはもうすぐ赤ちゃんが生まれることの報告をしてくれた。
そしてその生まれてくる子が女の子だということ。僕も学校に行き始めて初めて母さん以外の女の人を見た。女性は男性に比べ生まれにくく、女性は宝として大事にされる。けれど僕の学校にいる女の子は丸くて我が儘だ。
妹が出来るのは少し抵抗があった。母さんはこんなに娘に会えるのが楽しみなのに素直に喜べなくて悲しかった。
そんなことを思いながらも母さんの出産日を迎えた。生まれたその日には会えなかったけれど、次の日父さんと二人で今大路の屋敷に向かった。母さんはその腕に小さな命を抱いていた。母さんは息子の僕から見てもとても綺麗だ。腕の中にいた僕の妹は母さんの綺麗な青い瞳をしていた。僕も隼人も父親似で母さんにあまり似ている部分がない。けれど僕の妹の桜希は母さんによく似ていてまるで天使の生まれ変わりなのではないかと思うほど可愛かった。
父さんから聞いていたのは生まれたばかりの赤ん坊は皺々で可愛さが分からないかもしれないと。
全くそんなことはなかったこの世のものとは思えないほどの可愛さと小ささに庇護欲が刺激された。それは隼人も同様だったようだった。手を伸ばせば小さな手で握ってくれて、会いに行けば笑顔をくれる。そんな存在に生まれてくることを素直に喜べなかった自分に腹がたった。
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