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36)茶会の再開

 アレキサンダーの視界の隅で、ロバートがローズの唇に触れたのが見えた。黙っているようにと伝えたいのだろうが、恋人同士の戯れにしか見えない。


 まだ、あれの問題が残っているのだ。


 三人の姿が消えてから、しばらく間をおいてローズが口を開いた。

「噛みついたりしてごめんなさい」

「まったくです」

「今も痛い?」

「驚きましたが、大丈夫ですよ」

ローズは、自分が噛みついたロバートの左手を手に取り、何やら反省を始めた。そんなローズをロバートは微笑んで見守っている。


「サラ、すまないが」

アレキサンダーはティーカップを指した。本来は、茶会のはずだったのだ。注がれていた紅茶は冷え切っていた。普段、こういう些細なことに最初に気づくのはサラかロバートだ。

「すぐ、用意させます」

サラも同じことを考えたのだろう。

「あら」

サラの視線の先で、そのロバートはローズと話をしている。大方、気づいていなかったことの詫びを言い、慰めたりなんだりしているのだろう。


 愚か者たちの心無い陰口など、気にする必要はない。ローズは既にこの国に貢献した。これから先は、未知数だが、十分期待できる。

「あちらのお席はいかがいたしましょう」

「放っておけ。どうせ二人とも気づいていない。気づけば自分でなんとかするだろう」

そこかしこから忍び笑いが漏れる。


「アレキサンダー様。私が申し上げるのも何ですが。ローズが、花の意味を分かっているか、ロバートが確認しましたが、確認になるのですか」

フレデリックの言葉に、数人が頷いた。


「お前の懸念ももっともだが、あれは子供のころ、私と一緒に教えられているから、知っているはずだ」

ロバートの様子を見ていると、アレキサンダーも自身の記憶に間違いがないのか、我ながら疑わしくなってくる。

「おっしゃることはごもっともですが、信じられませんわ」

グレースの言いたいこともわかる。


「差し出がましいことを申し上げますが、兵法を知るからといって、戦上手とは限りません」

めったにこの手の話題には口を出さないエリックだが、その言葉には説得力があった。


「確かにエリック、あなたの言うとおりかもしれないわね」

言う通りかもしれないが、それではあの二人は、当面あのままになるのか。それは頭が痛い。

「本当に、誰か、ロバートを一度色町につれていくとか、出来ないか」

「お言葉ですが、アレキサンダー様。あのローズに教えたのは、高級娼館の綺麗どころと言うではないですか。似た者同士の二人です。無駄に終わることが目に見えています」


ロバート信奉者と噂されているエリックだが、この手のことに関しては、ずいぶんと容赦ない。

「あの、それに、以前にご命令いただいたとき、本気で嫌がって、部屋から叩き出されたので、ご容赦ください。今、そんなこと言ったら、私の身が危ないです」

フレデリックは必死の形相だった。


 アレキサンダーは溜息を吐いた。自らが滑稽に思えてきた。あの様子から察するに、ローズへの嫌がらせの原因の一つに、三人のロバートへの恋心や、ローズへの嫉妬もあったのではないだろうか。二人の間を邪魔する者は去ったわけだが、二人の間は何ら変わったように見えない。

「誰か、何とかできないか」

アレキサンダーは天を仰いだ。


「アレキサンダー様、鷹に泳げとおっしゃるのですか」

狩りをするロバートを、一部の貴族は鷹に例える。

「エリック、良い例えだが、いつまでもあのままというのも問題だ」

もはや、そういうものだと一度諦めるしかないのか。

「先送りにするか。あの分では、余計な虫もつかんだろう」

「仕方ありませんわね。邪魔ものが消えたのに、前に進まないなんて」


 グレースは辛辣な言葉を口にしながら、優しく微笑んでいた。

「ロバートはあなたの意を汲み、何とかして、あの子たちに自ら詫びを言わせようと、いろいろ手を尽くしてくれました。その優しさに免じて、私の妹代わりを甘やかすのを許しますわ」

「おそらく、その点では似たもの同士だ。数年待ってやってくれないか」

アレキサンダーの言葉に、グレースが目を見開いた。


「ローズを待つのはともかく、まぁ、仕方ありませんけど、ロバートはあなたと同じ年ではありませんか」

「許してやってくれないか。ロバートは、得手不得手が極端だ」

「ローズも同じですわね」

アレキサンダーとグレースは、互いに見つめ合い、微笑みあった。




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