33)種明かし
小姓達が集めた情報をもとに、ロバートは罠をはった。
夕食の席、サラに頼んでエミリア、ケイト、スーザンの三人を控えさせた。グレースには、ローズのリボンと、出来れば他何か一つ二つ褒めてやってほしいと頼んだ。
グレースがローズのリボンを褒めた時、ロバートは三人の様子に注意を払っていた小姓達の情報が正確だろうと確信した。作法についてのトレーシーの言葉を繰り返したのは、三人への忠告のつもりだったが、通じなかったらしい。
母の死と共に受け継いだ枷を活用することも考えたが、私用は許されていない。エリックから渡された報告書のおかげで、一族の禁忌に抵触せずに済んだ。報告書の情報をもとに、罠をはった後は簡単だった。
グレースが、ローズのリボンを褒めた翌日、三人は物陰で、ローズの陰口を叩きあい、次にどうしてやろうかと相談していた。ロバートはその場にサラとミリアを連れて行き、三人の会話を聞かせたのだ。
侍女達の不始末は、侍女頭であるサラに報告してもらうこととした。サラは、彼女らと同じようにアスティングス家からきた。サラに告発させ、褒美を与えることで、アスティングス侯爵からの横槍を防ぐ狙いもあった。
「ローズが私達に話した以外にも、本当に、ローズはいろいろ聞かされていたようで、気づいてやれなくて、小さなローズに申し訳なかったと、思っています。そのリボンも盗み出して、切り刻んでやろうかなど、本当にとんでもないことを相談していたのです。人の物を盗むなど、なんということでしょう」
寝台にあった虫やネズミの死体だけではない。ことあるごとに陰口を叩き、王太子宮内のあちこちで悪い噂を振りまいていた。調べ始めると、証人を集めるのは容易だった。
「彼女たち三人が、王太子宮のそこかしこで、ローズの陰口をことさらに言い立て、嫌がらせをしていたのです。皆、素直に話してくれました」
侍女や下女達の取り調べは、サラとミリアに任せた。任せた以上、監視はさせたが、ロバートが表立って調べることは控えた。西の館の者には、問題と感じていたが、報告すべきことなのか、誰に報告していいのかが、わからなかったと言う者も少なからずいた。今後対応すべき課題も見つかったと言える。
証言すべてを信用するわけにはいかないが、エミリア、ケイト、スーザンの三人の名は常に出てきた。
「ローズは、この国のために貢献しました。アルフレッド陛下のローズへの覚えがめでたいのも、その貢献によるものです。ローズの後見人は、アレキサンダー様です。ローズへの嫌がらせは、アレキサンダー様へのそれと同じこと。そんなことも理解できないなど、本当に、私の教育不行き届きです。申し訳ありません」
サラが再度深く頭を下げた。
「サラに頭を下げさせて、あなた方三人は一言もないのですか」
ロバートの言葉にも、三人は何も言わなかった。これでは、恩情をかけるよう、アレキサンダーに進言してやることも難しい。
「困ったことです。大変なことになるところでしたが、間に合ったようでよかったです」
ロバートは、ローズの頭を撫で、髪に編み込まれている深緑色のリボンに触れた。
「これは、母が、陛下から下賜いただいたものです。万が一、所有者から盗んだり、破損させたりなどと言った場合、どのような罪に問われるか」
三人が青ざめたのが分かった。
「アルフレッド様からお母様への贈り物を私がもらってもいいの」
ローズと目があった。本当は、こんな問題とは関係なく、渡してやりたかった。もっとも一族の当主だった母は、ただ贈るより、今回のような使い方を好むだろう。
「えぇ。もちろんです。箱の中で誰にも使われず色あせるより、ローズ、あなたの髪を飾る方がいい。母も喜んでくれるでしょう。陛下の許可もいただいております。相談いたしましたときは、随分とお喜びでしたよ。また陛下がいらっしゃるときに、このリボンをあなたが使っていたら、お喜びになるでしょう」
ロバートの言葉に、ローズはうれしそうに微笑んだ。