32)捕獲
アレキサンダーとグレースの前で、サラとミリアが深く頭を下げていた。
「申し訳ございませんでした」
「よい、顔をあげよ」
二人がローズをかばってくれていたのは事実だ。顔を上げた二人の表情は厳しい。そのサラの表情が緩んだ。
サラの視線の先で、ロバートがそっとローズの手をとり、椅子に座らせていた。
「どうしてわかったの」
「今からアレキサンダー様、グレース様に説明いたします。ローズ、サラとミリアを庇う気持ちもわかりますが、椅子から飛び降りるのは感心できません。今日はエリックに頼むようにと、朝、言いませんでしたか」
「はい。でも、慌てたら、忘れてしまったの」
「二人が、お勤めをきちんと果たしていることは、グレース様だけでなく、アレキサンダー様もよくご存じです。あなたが心配しなくても大丈夫ですよ」
ロバートが手の甲でローズの頬を撫でていた。その指先がローズの顎をとらえ、そっと上を向かせた。
「きちんと座っていてください」
ロバートがそっとローズの頬に口づけたのが見えた。
アレキサンダーも、目のやり場に困る光景だった。言葉だけは、妹を諭す兄のようだが、仕草は恋人へのそれに近い。隣に座るグレースが目を丸くしている。
サラは、微笑ましい二人を見守る母親のような雰囲気を醸し出している。頬かよといったエドガーが、鈍い音のあと痛いと続けたが、無視することにした。
ローズの隣に立つ、エリックだけは表情を変えない。近習の中で、一番ロバートに似ている、ロバートに心酔している等といわれるだけあって、表情を隠すことに長けている。本来周囲を警戒すべき目線が、空を彷徨っているのは気のせいではないだろう。
捕らえられている三人のうち、騒がしい二人、おそらくエミリアとケイトが、憎々しげにローズをにらみ、スーザンが目に涙を溜めていた。そういうことかと、アレキサンダーも合点した。ロバートは人気があるらしい。ロバート本人は三人を歯牙にもかけていないだろうが。
「ロバート、種明かしはまだか」
ロバートが、ローズの額にそっと口づけたのが見えた。
「先に、サラが説明されます」