31)罠 追い込まれた獲物
視察から戻り、何やらあわただしかったアレキサンダー達も、少し時間の余裕ができたらしい。グレースの元に、ぜひ、一緒にお茶をという連絡があった。
木陰に用意された席に腰かけたグレースは、不自然な点に気づいた。控えている侍女や近習、護衛騎士の人数が多すぎる。小姓達までいる。アレキサンダーがグレースの目線に答え、口を開いた。
「あなたへの報告があるそうだ」
進み出たロバートが優雅に一礼した。視察から戻って、五日しか経っていなかった。
「お待たせいたしました。先日、お尋ねいただいた件、関わっていたのは三人、エミリア、ケイト、スーザンです」
ロバートがあげた三人の侍女の名に、グレースは耳を疑った。
「まさか」
思わず漏れた一言は、グレースの心情そのままだった。
「違います、グレース様、そんな」
「なんのことか、私には身の覚えが」
「何かの間違いです」
三人が、口々に叫んだ。三人を止めたのは、進み出たサラだった。
「お黙りなさい」
サラの剣幕は本物だった。
「申し訳ございません。私の不行き届きでした」
サラが深々と頭を下げた。
「幼いながらも、この国のために貢献したローズの功績も理解せず、下らぬ噂を立て嫌がらせをするなど、あるまじきことです。私の教育不行き届きです。いかなる罰でもうけますのでご存分に」
その隣でミリアも頭を下げていた。
「サラさんは、悪くないわ」
それまで、一言も発していなかったローズが、椅子から飛び降りサラに駆け寄った。
「サラさんも、ミリアさんも、助けてくれたわ」
二人の手をとったローズは、アレキサンダーに訴えかけた。
「大丈夫ですよ、ローズ。サラやミリアは、何も悪くありません」
ロバートの穏やかな声が、静かな庭に響いた。
「問題は、その三人と、その三人に唆されたものたちです。それにしても、あなた方は、なぜ、私が名前を言っただけで、違うなどと否定するのでしょう。私は、あなた方三人が、処罰されるようなことをしたとは、申し上げていないはずですが」
青ざめる者、顔を真っ赤にするものなどそれぞれだった。
「余程心当たりがおありのようですね」
ロバートの声は穏やかなままだ。
「違うわ。何もしていないわ。急に言われて驚いただけよ」
エミリアが叫び、ケイトがそれに続いた。
「申し訳ありません」
スーザンが泣き出した。
「何よ、あなた、いい加減にしなさいよ」
「あなただって、一緒じゃないの」
泣くスーザンを、エミリアとケイトが詰り、喚く。あまりの騒ぎに、グレースは耳を手で覆った。
ロバートの合図で護衛騎士達が動き、三人を互いから引き離した。