27)庇護者達の話し合い
扉が閉まったことを確認してから、サラが口を開いた。
「ある晩、あの子が突然私の部屋を訪ねてきたのです。寝台の上に、猫が得物を忘れて行った。怖くて一人で寝れないから、一緒に寝てほしいと。夜に私の部屋にくるのは随分久しぶりで、驚きましたけど、その晩は一緒に寝ました。夜の間にミリアにローズの部屋を見に行かせたのです。ミリアはシーツの上にネズミの死体を確かに見たそうです。でも翌朝、私がいったときには、ありませんでした。護衛達は、不審者は出入りしていないと言いました」
ローズの部屋には、掃除やシーツの取り換えのため毎日数人の下女が出入りする。そのうちの誰かであれば、護衛も不審には思わないだろう。
「あの子の部屋に出入りする下女のうちの誰かの仕業です。ネズミの死体など、知らずに見たら叫びますよ。掃除やシーツの交換どころではないでしょう。その日、ローズの部屋を担当したのは誰かは調べはついています。ただ、証拠もなく、勝手に処罰を与えるのもどうかと思い、お帰りをお待ちしておりました。それからは、毎晩あの子と一緒に寝てやっています。あの子、先ほど話した以外にも、何かあるようなのですが、どうしても言わないのです」
自分が人の邪魔をしていると繰り返すのも、おそらくその何かに関係しているだろう。
「どうもありがとうございました」
ロバートはサラに礼を言った。
「ロバート、お前、何か心当たりでもあるのか」
アレキサンダーの言葉に首を振った。嫌がらせに気づいていなかったのだ。嫌がらせをする相手の心当たりなどない。
「いえ、ただ、しばらく前から時々妙に元気がない日がありました。どうしたのかと聞いても、大丈夫というだけで、それ以上は追求しておりませんでした」
あの時、追求しておけばよかったと、今更ながら後悔していた。
「庭師からも、元気がないがどうしたと、いわれていたのです」
庭に連れ出してやっても、前ほど朗らかには笑わなくなった。孤児院に帰りたいのかと思っていた。陰湿な嫌がらせをされているとは思っていなかった。
「他にも、何かあるとは思います。ただ、相手が処罰をうけると知った以上、あの様子では、ローズは何も言わないでしょう」
「だからといって、野放しにするつもりか」
「いえ。ただ、ローズも頑固ですから、言うとは思えません。何とかして証拠を押さえる必要がありますね」
「今まで気づかなかった奴が何を言う」
「それに関しては、申し訳ありません」
「謝る相手はローズだろう」
「はい。ところで、アレキサンダー様、そろそろ、グレース様もお疲れでしょうから」
身重の女性を無理させてはいけない。このままでは夜が更けていく。
「ロバート、逃げるつもりなの、あなた」
グレースを気遣ったが、逆に睨まれてしまいロバートは首を振った。
「まさか、逃げも隠れも致しません。ただ、グレース様がお疲れですと、ローズに明日、私が文句を言われます」
「文句くらい言われなさい」
グレースは手厳しい。それだけローズを大切に思ってくださっているのだろう。西の館の主がかわいがるローズに、嫌がらせをすることの意味はわかっているのだろうか。王家の保護というだけでない、王太子と王太子妃の寵愛をえるローズへの嫌がらせが、己の身を危うくすることに気づかないなど、愚かにもほどがある。
「少し心当たりがあるので、探ります。それ以上はこの場では申し上げられません。1週間以内に捕えて、いえ、何者かを突き止めてまいります」
ローズを泣かせずに処罰を与えるにはどうしたら、いいのだろうか。
「捕らえなさい」
グレースの言うことはもっともだが、それは出来ない。
「お言葉ですが、それではローズが泣きます」
「まぁ、確かにそうなのよね」
グレースの言葉に、サラも頷いた。
「では、任せましょう。早々の報告、待っております」
嫌がらせをしているのが誰かはわからない。今のロバートに心当たりあるのは、嫌がらせをしないであろう者たちだけだ。あとは、耳聡い者達が何か聞いている可能性ある。
「かしこまりました。一つお願いがございます。ローズへの嫌がらせに関して、グレース様、しばらく誰にもお話しにならないようにお願いいたします」
泳がせて捕らえ、処罰する。ローズが何と言おうが、王家が庇護するローズへの嫌がらせなど、見過ごせるものではない。
後見人がアレキサンダーであることの意味もわからない愚か者の居場所は、この国にはないことを、見せつけておかねばならない。