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9)少女の説明2

少女の怒涛の説明に王太子疲れる

王太子が書き写していると下から声がした。

「高くて見えません、見せてください、確認しないと」

少女が手を伸ばしていた。王太子は一瞬にやりと笑い、そのまま写し続けた。小生意気な少女をからかいたくなっただけだ。

「見せてください、写し間違いがあったらだめでしょう、見せてください」

小柄な少女が飛び跳ねたところで見えるわけがない。大人びた口調で、小難しいことを話していても所詮は子供だ。意地になった様子が面白く、王太子は、さらに上へ紙を持ち上げた。

「見せて!」

何度も叫ぶが無視された少女が、何を蹴るつもりか、足を振り上げたとき、ロバートが声をかけた。

「どうぞ。踏み台としてお使いください」

ロバートが少女に椅子を指した。

「ありがとう」

靴を脱いで、椅子に乗ろうとした少女にロバートが手を貸した。

「御覧になれますでしょうか」

「大丈夫。いろいろありがとうございます。あ、そこちょっと訂正したいです」

王太子の持つ紙の一点を少女は指した。身を乗り出してバランスを崩した少女をロバートが支えてやっていた。

「あの、支えてくれてありがとうございます」

「いえ、お気遣いなく」

 王太子に仕えて長いロバートは若い近習や小姓達の指導役でもある。ずっと以前、ロバートは、初めて指導した少年を、弟のように可愛がっていた。どうやら今度は妹を見つけたらしい。王太子の胸に、懐かしい少し苦い思い出がよぎった。


 思い出に蓋をして、王太子は地図をかきあげ、席についた。

紅茶を飲み終えた少女は、王太子の書き上げた紙を覗き込んできた。

「この概念を、町に既存の建築物にどのように当てはめるか、難しいでしょうね。おそらく、病院の他にも、教会のような大きな建物には病人はいるでしょうし」

少女のカップにおかわりの紅茶が注がれる。

「これをしたうえで、感染源の調査をする必要があります」

 少女の提案した町の管理方法を、どう実行するか、考えようとした王太子の耳に少女の声は飛び込んできた。

 

 まだ話し足りない様子の少女に、ロバートが、ジャムを塗ったスコーンを差し出した。

「どうぞ」

少女は遠慮がちにロバートを見た。

「せっかくですから、召し上がってください。美味しいですよ」

スコーンを食べるように勧めるロバートを、少女が不思議そうに見上げていた。

「あなたは食べないの」

「はい。毒見はしておりますのでご安心を」

「まぁ」

少女が目を丸くしていた。子供に菓子を勧めるときに、毒見の話をするなど、ロバートくらいだろう。ロバートは妙なところで気が利かない。

 

 イサカは国境沿いの町だ。隣国とのせめぎあいで、頻繁に支配する国が変わる交易都市だ。支配者が頻繁に入れ替わる中、町には独自の自治組織が発達し、特異な気風で知られている。イサカの自治組織に関わる者たちが、王宮からの指令に簡単に従うかも問題だった。少女の提案した方法はよい。だが、実行には問題がある。考える時間が欲しい。

 食べてくれ。少し、その口を閉じていろ。王太子の心の声が届いたのか、少女がスコーンを口にした。

「あ、これ美味しい。ありがとうございます」

嬉しそうに食べるさまは可愛らしい。年相応の様子に、王太子は妃であるグレースの幼い頃を思い出した。年に数回会う程度だったが、婚約者であるグレースは、とても可愛らしく、会うのが楽しみだった。

「紅茶のお代わりもどうぞ」

乳兄弟であるロバートは、王太子の心を察したのだろう。少女の相手をしていた。少女は笑顔で礼をいい、紅茶を飲んだ。その様子を見守るロバートは穏やかにほほ笑み、見守っていた。

「いい香り」

少女が微笑むと、ティーカップに顔を近づけ、息を大きく吸い込んだ。

「花が入っているのです。ご覧になりますか?」

王太子宮の外での冷徹な印象ばかりが先走っているが、ロバートは厳しいが面倒見がよい。部下にも慕われている。今も、ポットの蓋を外して中を少女に見せてやっていた。

「で、続きですけど」

ロバートがお代わりにと、注いでやった紅茶の香りを楽しんでいたはずの少女の声で我に返った。王太子は、ロバートが稼いだ時間を、無駄にしてしまったことに気づいた。少女は既に机の上にあった、最初に真っ二つに割られたスコーンを手に取っている。

「感染源がどこかにあるはずなんです」

ほぼ休みなしで続けるのか。王太子も半ば呆れた。

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