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23)サイモンと小姓達

途中で視点が変わります。

 泣き止んだローズを図書館に連れて行ったあと、小姓達は集まった。

「どうする」

「報告しないわけにはいかないだろう。それも、早急に」

「お前、言わないって約束なんかするなよ」


仲間の言葉に、ティモシーは笑った。

「言わないって言ったさ。でも、報告する方法はあるよ」

訳が分からないという顔をした仲間にティモシーは得意気にいった。

「サイモンさんの真似したらいいんだ」


サイモンは、声が出ない。だから、石板を常に持ち歩いている。

「書いたらいいんだ。言わないで。だったら、約束破りじゃない」

「さすがティモシー、もうすぐ近習見習いになるってだけあるね」

「それ、緊張するんだけど」

「ティモシー、報告書書いたから見てくださいってエリックさんに渡したらいいんだ」

「やめてくれよ、エリックさんに全部修正されるだけだよ」

「読んでくれるよ」

「だったら、サイモンさんに手伝ってもらおうよ。あの人、資料整理してるから、絶対報告書沢山見てるもん」

「でも、図書館にはローズがいるよ」

「夕方には帰るよ」

「じゃあ、順番で見張りだ。今日の仕事、片付けないと」





「サイモンさん」

夕刻、ローズを図書館に迎えにきた近習に託し、鍵をかけようとした時だった。物陰から名前を呼ばれたサイモンは周囲を見渡した。

「サイモンさん」

小姓が数人いた。

「ちょっと、お願いがあります。内緒の話をできますか」

小姓達の真剣な様子に、サイモンは先ほど閉めたばかりの図書館の扉の鍵を開けた。


「石板を今だけ貸してください。言わないって約束だから、言えないんです」

真剣な顔の小姓に、サイモンは肌身離さず持っている石板を渡した。

少年達が石板に書いた文章を見て、サイモンは頷いた。

「サイモンさん、ご存じでしたか」

少年の言葉に、サイモンは数日前にあったことを、石板に記した。


 あの日、一日図書館に居たいというローズに手伝ってもらって、午前中は資料の整理をした。昼の軽食のため、厨房に向かうと、天気がいいからと、厨房では、軽食を二人分、バスケットにつめて用意してくれていた。


 バスケットをもってやり、庭へと二人で歩いていた時だった。

「子供のくせに、あばずれが」

 という陰口が聞こえたのだ。ローズは聞こえなかったかのように、歩みを止めなかった。

「あーあ、随分と生意気な、ご寵愛を得ているからって、お高くとまって何様のつもりなの」


 はっきりと聞こえた声に、さすがにサイモンも足を止めそうになったが、ローズは止まらなかった。目に涙を溜めたまま、早く行こうというようにサイモンの手を引っ張った。


ー多分、あぁいうことは、初めてではないと思います。ローズさんからは、何も聞いていませんがー

サイモンの言葉に小姓達も頷いた。


「サイモンさん、私達、ローズちゃんと、誰にも言わないって約束したんです。だから、サイモンさん、今の筆頭のエリックさんに、教えてもらえますか」

小姓達の頼みにサイモンは頷きかけてやめた。

ー証拠や証人が必要だと思いますー

「どういうことですか」

ー彼女たちは罰を受けるべきです。でも、そのためには証拠や証人が必要なのですー


サイモンは、日々、王太子の執務室から発生する大量の資料の整理を仕事にしている。その内容も知っている。

ー彼女たちの行動は、ローズの後見人である王太子様への不敬罪です。裁くには証拠が必要ですー

不敬罪という重い言葉に、少年達は顔を見合わせた。

「確かに、ローズちゃんの後見人って、王太子様だ」

「なんとなくロバートさんだと思ってたけど」

「あれは、兄さんだよ」

「いや、父親の代わりじゃないの」

「え、でも、恋人みたいだよ。ローズちゃんが小さいだけで」

それ以上、その繊細な話題を口にするのは止めて欲しい。サイモンは小姓達が繰り広げ始めた話に、いたたまれなくなってきた。この図書館での二人の様子を知っているのは、サイモンだけのはずだ。


「ねぇ、サイモンさんどう思いますか」

案の定、怖いもの知らずの小姓達の質問にサイモンは顔をひきつらせた。

ー私からは、何も言えませんー

「えー、つまんないの」


サイモンは、小姓達の関心をもとの話題に引き戻すことにした。

ーそれより、証拠です。不敬罪の証拠と証人をどうやって集めますかー

「この、卵のついたハンカチ、証拠になるけど、汚いし」

「ってことはあれだ、サイモンさん、作戦会議だ、作戦会議しよう」

ーここにあまり遅くまで人がいると、夜警の方に怪しまれますー

「でも、昼間は仕事があるし」

「ロバートさんなら、『時間が無いという前に、手分けして効率よく済ませる方法を考えてはどうでしょうか』っていうよ」

「よし、じゃぁ、明日から手分けして効率よく済ませよう」

「サイモンさん、明日、ここにローズちゃんくるかどうかわかる」


ー多分、来ません。明日は、宰相様と王宮の図書館に行くと言っていましたー

「王宮の図書館、って通行証いるはず」

ーローズさんは陛下から許可をいただいていますー

「やっぱ、すごいな。じゃあ、サイモンさん、明日昼、私達と作戦会議はいかがですか。お迎えに来ますよ」

ーわかりましたー

小姓達の勢いに乗せられ、サイモンは思わず了承してしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 罰するなら証拠補必要だろうが… 情報として、先に報告した方が良いと思うんねん。 小姓達、褒められて怒れられるパターンやなw
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