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1)新しい生活

第二章開始です

 ライティーザ王国の王宮に、教育係として、代々仕えているものは多い。国から国へと渡り歩く学者もいる。いずれ生まれる王太子アレキサンダーの子供たちのために、教育係をふるい分け、新しく適切な学者も雇うことが必要だった。


 ローズに教育係を付けて、アレキサンダーは、教育係の選別に、ローズが使えることに気付いた。子供だから、孤児だからと、ローズを小馬鹿にするものも少なからずいた。実際、歴史や古典に関しての知識がない。ローズもその自覚がある。知らない分野は、かつてアレキサンダーと一緒に教育をうけたロバートにも教えてもらい、司書のサイモンにも手伝ってもらいながら、克服していった。多くは、彼女の過去が勉学には恵まれていない環境であったためと理解し、態度を変え熱心に教え始めた。それでも、ローズを馬鹿にし続けるものはいた。


「知らない人に教えるのが教育係です。子供だからといって、見下し続けるのが教育係というのは、問題だと思います」

教育係は将来的に王太子の子供たちを教えることになるのだ。子供だという理由で相手を見下すものは問題だ。イサカの町に関しての、ローズの貢献を理解しないなど、情勢に疎いにもほどがある。ライティーザ王国を揺るがしかねなかった問題を把握していないなど、教育係として論外だ。

 一部の教育係は王宮を追放された。

 誰かが追放されると、その座を狙って別の者が来る。偽物も含め、各地から学者たちが訪れてきた。学者が己の見識を述べるとき、ローズは近くで聞いていた。偽物は最初から追い払う。ある程度使えそうな者は、王太子も含め幾人かが質問し、その中にローズも含まれた。子供であるローズだが、質問内容は大人と同様である。そんなとき、子供にもわかるように説明できたものだけが、一定期間試用として雇用され、取捨選択されていった。

 「面白い影響があるものだ」

基本的に熱心なローズの態度は、教育係たちにも好評だった。


そんな中、グレースの腹は少しずつ目立つようになっていた。結婚して数年、二人には子供が無かった。王族と貴族の婚約だ。婚約前に会ったのは一度きりだ。ライティーザ国内が内乱寸前だったこともあり、婚約しても結婚前に会う機会は年数回しかなかった。

 結婚してからも、王太子宮でも西と東の館に分かれ、各々の寝所がその奥にあるとあっては、子作り以前に二人で会うことも少なかった。それが、ローズが現れ、色々問題を引き起こしたことで、会話する機会ができ、めでたく懐妊した。これから生まれる子供のこと、乳母のことなどで、王太子宮全体が忙しくなるが、うれしいことだ。


ある日、グレースはお腹をなでながら、ローズにいった。

「ローズはこの子のお姉さんになってね」

暗に、教育係を頼まれたようなものだ。ローズが貴族の風習をどこまで理解しているか心もとない。アレキサンダーの心配をよそに、ローズは元気に了承し、グレースに頼んでお腹を触らせてもらっている。

「微笑ましいが心配だ」

アレキサンダーの言葉に、ロバートも苦笑した。

「ローズ、君は赤子の面倒などみたことあるのか?」

ローズは賢いが、様々な奇行はいまだにつきない。それが子供に悪影響をあたえ、ローズのようなちょっと変わった子供が育ちそうなことが、アレキサンダーは気がかりだった。

「孤児院で、シスターたちと面倒を見ていました」

王太子妃の名を冠したグレース孤児院でローズは育った。疫病に襲われたイサカの救済に寄与したローズを育てた孤児院ということで、王室からの援助額も増え、グレースの実家アスティングス家からも寄付されるようになり、庶民からの寄付金額も増えた。先日、孤児と貧民の子供のための学校も始めたと報告があった。

「よいのではないでしょうか。あの孤児院では、子供の死亡率はいまだに低率を保っています。識字率も高く養子縁組が成立しやすいと評判です。周囲の町の子供たちを教える学校も始めたそうで、町の者からも感謝されているようです」

ロバートの言葉にローズが微笑んだ。

「まぁ、いいだろう。駄目だといっても、付きまといそうだしな」

「ありがとうございます」

ローズが笑った。

「赤ちゃん、ちゃんと大きくなって、元気に出てきてね」

上機嫌で、ようやく膨らみが分かるようになったばかりのグレースの腹に、ローズは話しかけていた。

「聞こえるのかしら」

「きっと聞こえています」

「あら本当?アレックス、あなたの声も聞かせてやってくださいな」

グレースに促されたアレキサンダーも、グレースの腹に触れた。

「声を聞かせろと言われても、何を言えばいいのか」

ローズのように好き勝手に話せといわれても、アレキサンダーは何を言えばいいのか思いつかない。

「まぁ」

グレースが、鈴を転がすように笑った。


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