56)ロバートの復帰
感動的な再会もつかの間。ロバートはローズに連れられ書斎にきていた。
広げた地図を前に、ローズはロバートに説明してくれた。
「これは、あなたがやったことよ」
ローズは満面の笑みを浮かべていた。
「この町からしたら、これからの復興が正念場だけど、この感染源がわかったのと、新規感染者、死者を抑え込めたのはあなたの功績よ」
ローズは嬉しくて仕方ないらしい。はしゃいで飛び跳ねたらかわいいだろうとおもうが、本人にその自覚はなさそうだ。
「これを国王陛下の前で説明したのですか」
「そう。ちゃんと、現地であなたが調べてくれたといったわ。国王陛下以外にも、いっぱい貴族がいたわ。御前会議の人達よりも多かったわ」
何か、恐れ多いことを、ローズが口にした気がした。御前会議でなく、大半の貴族が出席する貴族会議だったというのか。
「町の人達、伝令の人達、沢山の人の協力があって出来たことよ。だから、それもちゃんと国王陛下にお話ししたわ。貴族が大勢だったから、ティタイトがイサカを見捨てた今が、いい機会だとお話ししたわ」
ロバートが現地で実際に感じていたことを、ローズは口にした。
「きっと、国王陛下や王太子殿下にとっていい方向になると思ったの」
貴族会議でローズが具体的に何を説明したのか今一つ分からない。だが、小さなローズは、イサカの町を餌に貴族を釣ったのだ。
「ご褒美もらえるといいわね。命がけで国のために頑張ったんだから」
ロバートはローズがどういう説明をしたのか気になった。
「普通に説明しただけよ。テーブルにつかれるくらい偉い方々には、お会いしていたから心強かったわ。質問もあったけれど、ちゃんと説明しやすいように、打ち合わせしたみたいな質問をいただいたの」
ローズが上機嫌なことはわかるが、ロバートの必要とする情報は何一つ含まれていない。
「ローズ、あなたが上手に説明したのは分かりました。ですが、具体的に何を言ったのか、教えてください」
「無理よ。細かいことは忘れちゃったもの」
首を傾げたローズは可愛らしい。だが、それでは困るのだ。
「ローズ。都合のよい時だけ、子供らしくならないでください」
「多分だけど十二歳よ。小さい子扱いしないで」
膨れたローズにロバートは微笑むしかなかった。
貴族会議に出席していたアレキサンダーも、ロバートに詳細を伝えてはくれなかった。
「“お茶会”の延長だったからな。まぁ、気にするな。正直、ここでの御前会議で話し合っていたことを、纏めてしゃべっただけだから、あまり新しいことはなかった」
分かったのは、この国の騎士達の尊敬を集めるアーライル子爵が、ローズを高く評価していることだ。イサカの町に、御者に扮した騎士を四人も送り込んだのは、アーライル子爵だ。物資の輸送に各地の騎士団を動員できたのも頷ける。道理で、あの家の次男であるレオンが後任としてきたわけだ。
「数日後、私は陛下との謁見だと伺っております」
イサカの町の今後も大切だが、ロバートにとっては数日後の謁見も大きな課題だった。
「お前なら問題ないだろう。常通り、報告すればいい」
「ローズが説明したあとに、同じことを言うことになりかねません。せめて概要だけでもローズが何をいったか教えてください」
「聞いたほうがやりにくいと思うがな。まぁ、学者のような説明をしたな。謁見だが、父上は、御前会議で報告させると言っていたからその心づもりをしておけ。ローズは出席させないから、王宮で行う」
「心得ております」
心得ているが、ローズの報告の後だと思うと、重複や祖語が生じないようにしたいだけだ。残念ながら、ローズもアレキサンダーもそこに気づいてはくれないようだ。
常通り、ロバートは空になったアレキサンダーのカップに紅茶を注いだ。
56)の頃の幕間AM7時更新予定です
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