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51)後任達とベン

 ロバートが紹介してくれた御者のベンは気さくな男だった。すでに成人した息子たちが隣町にいるという。


彼の妻の食堂には、町の者たちや、王都から来たものたちがいて、ロバートと親し気に挨拶を交わしていた。


「ロバート、あんたの弟子かい?」

「はい」

「違います」

ベンの言葉に同意する3人と、否定するロバートの声が重なった。


「弟子などと、おこがましい。私の仕事を引き継いでくださる方々ですよ」

「じゃあ、弟子じゃねぇか。引継ぎってことは、ロバート、お前も帰るんだなぁ。とうとう」

別れが近いことをベンは惜しんでいるようだった。


「えぇ、そろそろ交代です。あなたにはお世話になりました。これからは、彼らを頼みたいのですが」

「任せとけ。まぁ、俺じゃたりないときは、仲間にも頼むさ。なんか、柄でもない立場になっちまったしな」


辻馬車の御者だったというベンは、ロバートの仕事を手伝う間に、御者仲間の頭のようになり、今では本当にこの町の御者の代表になったと笑った。

「ありがとうございます」


ベンの妻は、自分の料理はこの地方のもので、さほど珍しいものではないと言った。ただ、王都から来たロバートが毎晩ここで食べていたら、いつのまにか客が増えて食堂になったと笑った。謙遜するが、王太子宮務めのロバートが毎日食べられるのだから不味いはずがない。料理は美味だった。


「ここの食事なら問題ありません。彼の妻にローズの言った通りの調理をしてもらっています。いずれ、町全体がそうなっていけばいいのですが。それは、あなた方や、あなた方以降の方々のお仕事になるでしょうね」


アレキサンダーの名代であるロバートは、為政者である彼の主と同様に、この町の未来を夢想しているようだった。


「兄ちゃん帰るのかぁ。まぁ、若いのが来てくれたといえ、寂しくなるなぁ」

遠くの席からも声がした。

「私の仕える主のご用事もあるでしょうから、いずれまた、この町に来る日もあるでしょう」

レオンは、穏やかにほほ笑むロバートの視線が、自分達に向いていることに気づいた。


 王太子の鉄仮面、腹心、懐刀といわれるロバートが、そうそう主の傍を離れるわけがない。ロバートのいういずれとは、アレキサンダーがこの国境地帯の町に視察に来る日という意味になる。


レオンは、国境地帯の治安という言葉が頭にちらつき、酒の味が分からなくなった。隣では、法律家のマーティンの食事の手が止まった。たしかに、そういう意味にもとれる。


カールが一人、嬉しそうに杯を空にしているのが恨めしい。治安が良くなれば商売には利点だ。そのためには資金がいる。カール一人楽をさせるものかとレオンは心に決めた。


「おう、待ってるぜ。もちろん連れて来いよな。どんな美人か楽しみだ」

隣のテーブルの男たちは、そういうとロバートを冷やかすように口笛を吹いた。


「いえ、ですからそういう仲では」

「だから、頑張れっていってるじゃねぇか」


 ベンは豪快に笑うと、励まそうとするかのように、ロバートの背を乱暴に叩いた。若い三人は顔を見合わせた。王太子の腹心として名高いロバートが、町の男達と親しく口をきき、背中を乱暴に叩かれても文句を言わない姿など想像したこともなかった。


 用事があるといってロバートは先に帰っていった。食堂にいた男達のうち数人が、当然のようにロバートと一緒に出て行った。


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