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50)後任達とロバート

 三人はその晩、ロバートに連れられて町へ出ると言われた。


ロバートとレオンが腰に長剣を佩くのは当然だが、カールとマーティンまで短剣を身に着けるように言われた。


「王都からの人間が、町の者全てに受け入れられているとは言えません。町を封鎖し、井戸を封鎖し、市場を移動させたことで、恨みを買ってもいます。単独行動は控えてください」


ロバートの一言に、三人は互いに顔を見合わせた。

「ご心配なく。今は協力してくれる方々も十分におられます。身辺警護を買って出てくれる方々もおられますから、さほど不安に思われる必要もないでしょう」


 ロバートの言葉に、レオンは父の配下からの情報を思い出していた。最初のころは、幾度か白刃を交える機会があった。王太子の名代は、ただの近習と思っていたが意外と手練れで、かつ、自分達に稽古をつけてくれと頼んでくる熱心さがある。ただ、どちらかというと、こちらが胸を借りている。町の者からの人望もあると、彼らは一様にロバートを褒めていた。


「身辺警護を買って出るとは?」

いつもの通り、マーティンが質問をしていた。


「町の者を、支援物資を運ぶ人足に雇ったのですが、彼らが恩義を感じてくれたようです。夜、今から行く場所に食事に出るのですが、その時に交代で同行してくれます。その分の賃金を受け取ろうとされないので、食事代は私が払うことにしています。私は彼らを町の警備隊として、町での雇用を始めています。ここは商売が盛んな町ですが、周辺では商隊を狙った盗賊も少なくない。盗品の市場があるという噂もあります。取り締まりには、人手が必要になるでしょう。あぁ、あまり、私が思う先のことまで話してしまっては、あなた方はやりにくいかもしれませんね。失礼しました」


レオンの質問に答えるだけでなく、ロバートは、より先のことまで語った。

「いえ、盗賊取り締まりだけでなく、ぜひ、盗品も取り締まりましょう。いえ、取り締まってください。人から盗んだ商品で儲けるなんて許せません。盗品市場は、我々まっとうな商人の敵です」

カールは思わずロバートに詰め寄った。


「お気持ちはお察ししますが、引継ぎのあなた方がいらしてくださった以上、私の名代としての役目は終わりです。それは、これからのあなた方のお仕事です。アレキサンダー様もご尽力くださるでしょう。これからこの町で活躍されるのはあなた方です。アーライル子爵家のレオン様、法律家であるマーティン様、商人であるカール様、あなた方三人は、アレキサンダー様が思い描いておられるこの町の姿を実現するために来ていただいたと私は考えております」

ロバートの言葉に、三人は出発前夜のアレキサンダーとの面談を思い出した。


出発前夜、三人はアレキサンダーに呼び出された。

「ライティーザ王国の領土とはいえ、イサカの町は手に入っていなかったも同然だ。これから手に入れる。そのためにお前たちを選んだ。私達はこれから、イサカを掌握する」


アレキサンダーは、三人にいまだ構想段階だというイサカの町、国境周辺の町の将来像を語った。

「こちらからの書類は未開封でロバートの手に届いているはずだ。ロバートからの書類は全て、一度転記されてからここに届く。まだ内容を表沙汰にできる状況ではないから、先ほどお前達に話した内容は、ロバートには伝えてはいない。引継ぎを送ることは連絡してある。ロバートは勝手に察して既にいろいろ構想しているはずだ。細かいことをあれに聞け」


アレキサンダーが見せたのは、三人の素性と、おおまかな仕事の割り振りを記載しただけの書状だった。

「王太子殿下、あなたの腹心ともいわれる方を信頼しておられるのはお察し申し上げますが、あまりに一任しすぎではありませんか」

レオンの言葉に、マーティンとカールもうなずいてくれた。その言葉に王太子が、ローズを見た。


「殿下は、今ロバートが現地で構想していることを、あなた方三人が聞きだせたら、あなた方を引継ぎとして認められたということだから、自分達でなんとかしろとおっしゃりたいのです」

「お前たちを引継ぎとして認めるかは、あれの裁量だ。あれはなかなか手厳しい。気に入らなければ、お前達にそれなりには仕事を引き継ぐだろう。先ほど私が語ったような根幹にかかわるようなことには一切触れずに、極めて丁寧に表層的な仕事をな。そのあと、お前たちとは別に、根幹を引き継がせるための後任を送り込む。それくらいはするから、覚悟しておけ」

アレキサンダーの言葉に、三人は顔を見合わせた。


「あの、私達の前に、引継ぎ予定だった貴族の子弟が追い出されたという噂は本当でしょうか」

「ひどいわ」

マーティンの言葉に、ローズが叫んだ。

「あの方々は、町の人にお掃除とお洗濯を教えるために練習しましょうと言ったら、勝手に怒って出て行っただけよ」


ローズは憤慨していたが、アレキサンダーと近習たちは笑いを堪えていた。

「私達には、そういった指導はありませんでしたが。まぁ、旅をするので、やれと言われればやりますけど」

カールの言葉にマーティンとレオンも頷いた。師匠と旅をするマーティンも、騎士として遠征の訓練をするレオンも一通りのことはできるのだ。


「既にそのあたりは、解決した問題です。ロバートが町の人に教えて、今は町の人たちがお互いにどうやったらいいか相談しながら工夫しているそうですから」


解決したというローズ自身がなぜ、貴族の子弟に教え込もうとしたのか、三人は顔を見あわせた。そんな三人を見かねたのだろう、エリックが教えてくれた。

「つまり、この小さなローズは、高貴な方々が自ら出ていくように仕向けたのですよ。ご安心を。ロバートはもう少し穏便に物事を片付けますから」

全く安心できないことを語るエリックは、手本のような笑顔を浮かべていた。


三人の中で、最初に現実に戻ってきたのは、騎士であるレオンだった。

「ところで、ロバート、先ほど、僕らに敬称をつけましたね」

「近習としての習い性です。ご容赦下さい」

ロバートが苦笑した。


「こうなったら、全員、お互いに敬称をつけましょう」

法律家のマーティンが叫んだ。

「いいですね」

レオンは賛成した。


「どうか、ご容赦ください」

ロバートの言葉に、周囲の者たちが笑った。

「呼ぶのはいいけど、呼ばれるのはなぁ」

カールは頭をかいた。


「本当に、勘弁してください。私はただの近習です。主にお仕えする立場です」 

 ロバート本人はそう言うが、周囲の町の男たちはロバートに敬称をつけることを気に入ったようだ。あちらこちらから、ロバート様と呼ばれてロバートが閉口していた。


イサカの町の商人達との付き合いは以前からあった。イサカの商人達は、有力商人達の組織が町の自治を行っていることを誇っていた。そんな町の者たちが、王太子の名代であるロバートをそう簡単に受け入れたとは思えない。ただの近習と自分を卑下するロバートを、そう簡単に尊敬するわけがない。


 後任として、自分たちが受け入れられるか、そのために何をすべきか、カールは考えを巡らせ始めた。




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