49)後任達の語るローズ
ローズによく怒られたと、レオンはローズの言葉を再現しはじめた。
「レオン様、あなた、何考えてるの?あなたあの町で死にたいの?それとも生きて帰ってきたいの?やる気がないならお家に帰っていただいて結構よ。お家なら、疫病で死ぬ確率は下がるわ。ご両親も安心されるわ。お好きにどうぞ。選ぶのはあなたよ。ただし、選んだことに責任を持ちなさい」
大柄なレオンが、身振り手振りも交え、小さなローズの口調を真似る様子に、ロバートは笑い出してしまった。若い三人の戸惑った様子に、笑いすぎたと思ったが止まらない。
「懐かしいですねぇ。あの子らしい。元気そうな様子をきけて良かったです」
別れ際、ローズは一か月は頑張って、三か月は超えないようにする。そういっていた。丁度もうすぐ二か月だ。
「この町にきてもうすぐ二か月です。あの子が元気なようで何よりです。懐かしいですね」
自然と笑みがこぼれた。
「ローズ様の厳しいご指導も、私たちのためをおもってのことです。ロバート様、あなたのお仕事を精一杯引き継がせていただきます」
「私のことは呼び捨てで結構です」
レオンの言葉に、ロバートは思わず、話題を最初に戻した。
結局、ロバートと後任の三人は互いを説得するのはあきらめ、町にいる間はお互いに敬称なしで呼ぶこととなった。当然、町を出れば、各々の身分を考慮した敬称で互いに接することになる。今だけと思えば、ご指導いただく身の我らに敬称は不要ですという、威勢のよいレオンの言葉を、ロバートも何とか受け入れることもできた。
「ところで、彼女の指導はどうでしたか?」
ロバートの言葉に、三人は顔を見合わせた
「私は、手厳しい指導だったと王太子殿下に申し上げました。ローズ自身も、自分の指導は優しくないと言い切ってました。あなたたちにはどうでしたか」
彼らが言いやすいように、ロバートは自分の感想を言ってみた。
「あの、僕ら、内緒で連隊長って言ってました。僕ら三人なので」
返事をしたのはマーティンだが、レオンの発案だろう。ロバートはまた、笑ってしまった。
「でも、あの、僕らが生きて帰れるように、きちんと仕事が出来るようにという意味で厳しいのはわかっていましたし」
「私は、あの方が上官だったら、どんな戦地でも、それこそ地獄の底まででもついていきます」
「ああいう指導はどちらかに分かれるでしょう。心酔してどこまでもついていくか、毛嫌いして去るか。商隊を率いる連中が個性派ぞろいな理由がわかりましたよ」
「最初は辞めようとおもったこともあったんです。でも、一生懸命教えてくれているのがだんだんわかってきましたし。ほかの仕事も沢山あるなか、本当に親身になってくれているからこそ厳しいんだと気づいて、今日、ここまで来ました」
「それはよかった」
時に激しいローズの気性を、彼らが受け入れていることに安堵した。ローズが元気なのも、彼らがやる気があることも分かった。
「引継ぎは明日から始めます。最初にお伝えしておきますが、私もローズから教えられ、この地へ来ました。残念ながら、私も指導に関しては、彼女の教え方の影響をうけていると思われます。明日からですが、頑張りましょう」
「あの、ロバート」
「はい、なんでしょう」
「やっぱり、ロバート様とお呼びしていいですか」
何故、貴族のレオンが、使用人に敬称をつけたがるのかロバートには理解できなかった。
「それは止めてくださる約束ですよ」
「僕らは指導される側です。ロバート様が良くても父が許しません。どうか」
「あなたのお父上、アーライル子爵様はここにはおられません。敬称よりも大切な問題があります。今後のことについて話し合うべきなのですから」
「ローズ様と同じことをおっしゃられますね」
「言いそうなことです。効率重視で短気なところがありますから」
一つ一つが懐かしい。あっていない間に、ローズはどう変わっているのだろうか。無理をしていないだろうか。ロバートは、柔らかい笑みを浮かべた。
ローズからの手紙はロバートを経由し、あちこちに送られていた。ロバートも全て目を通しているが、仕事の量として心配になってくる。
ロバートへの手紙にも、無理するなといったのに、この仕事量で申し訳ないけれど、と書かれつつ仕事の内容が用紙をびっしり埋めている。ローズからの手紙は数日おきに各部署に届けられている。子供の仕事量ではない。稀に手紙の間隔があくと、心配になる。何かあっても、連絡がない限り、わからない。少なくとも、彼らが王都を離れたその日、ローズが元気に彼らを見送ったときいて安堵した。