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46)エドガーの独り言

「エドガーさん、先ほど、父の頼みだとおっしゃいましたが」

レオンの言葉に、暫く逡巡した後、エドガーは口を開いた。


「ここからは、あくまで俺の独り言だから、黙って聞いておけ。ローズは本当に貴族を派遣するつもりはなかった。有力商人が牛耳ってる町だ。そもそも貴族の権威なんて受け入れる連中じゃない。既にアーライル子爵様には、四人も派遣していただいている。物資の運搬に関しても各地の騎士団を動かしてもらっている。あまりに一つの家に頼っても問題だ。ローズは、ロバートが後任と交代した後、国から正式に騎士団を派遣し、アーライル子爵様が派遣された四人を引き上げていただいてはどうかと提案したんだ。さっきローズが言った通り、イサカを掌握後に、アーライル子爵様には、ライティーザ王国総騎士団長として、イサカを含めた国境地帯の街道警備にご尽力いただく予定だった。その先遣隊も兼ねての提案だった。そうしたら、アーライル子爵様が、ロバートの後任として、次男のお前を派遣してくれないかとおっしゃった」


レオンも、ローズが父親から推薦があったとは聞いていた。

「次男に経験を積ませたい。前線に立つより、指揮官としての能力があると思う。だが、実戦がない今、経験を積ませることは難しいし、実力の有無も確かめようがない。摸擬戦もあるが、お互いに手の内が分かっている身内の摸擬戦だから、次男が勝っても実績として周囲に認めさせることができない。だから、次男を使ってくれと、ローズに頭を下げた」


「え、それって」

「黙って。独り言なんです。あれは」

マーティンとカールは相変わらずだ。だが、レオンも同じ思いだった。ライティーザ王国総騎士団長である父が、頭を下げてまで頼んだとは知らなかった。


「そのあとの話の内容は、俺は知らない。ローズは驚いて椅子から落ちたくらいだ。そのついでにアレキサンダー様の袖を引っ張って、人払いをと頼んだ。だから詳細を知っているのは、アレキサンダー様、アーライル子爵様、ローズの三人だけだ。翌日、アラン・アーライル様がいらっしゃった。その三人での話も、人払いされたから、俺は知らない」


「ローズさんが、兄にお会いになったのは、その時ですか」

レオンは自分が、ローズに敬称を使っていることに気づいた。

「だろうな。初見のときは面白かったぞ。俺もあの体格には驚いたが、ローズはびっくりした顔で首が仰け反ってたからな。大人顔負けの時もあるけど、やっぱり子供だなとおもったよ」


エドガーは優しく微笑んでいた。

「ローズは最初、この王太子宮に、疫病封じ込めのため、イサカの町を封鎖しろと王太子宮に言いに来た。それだけじゃない。疫病の治療法を知っていた。封鎖したイサカの町の中を管理して、疫病の発生源を突き止め、疫病を抑え込めるといった。事実その通りになりつつある。疫病が発生したら、周辺は跡形残さず焼き討ちが基本だ。ローズのおかげであの町は生き延びた。それだけじゃない、ローズはまだ、疫病が流行っている間から、疫病の後のことを言いだした。イサカの町に疫病のことで悪い評判が立たないようにしてくれってな。十二やそこらの子供だぞ。そんなことまで普通考えられるか」


「そんな先のことまで」

「あの方は、イサカの町の恩人なのですね」

マーティンとカールの方を一瞥したエドガーが、苦笑しつつも頷いた。


「アレキサンダー様は、小さなローズをこの件に関しての参謀として使っている。腹心のロバートを名代としてイサカの町に派遣された。ロバートは、万が一疫病封じ込めに失敗したら、家名なしの一族の本家の首を有効に使えとアレキサンダー様に言い残していった。腹心の首がかかってる計画だ。アレキサンダー様の立太子に反対している連中は、内心失敗を願っている。だから、下手な貴族の手は借りられない。かといって王太子妃様の御実家であるアスティンスグ家ばかりが台頭しても困る。アーライル家の協力はありがたいが、俺は、それが問題にならないか心配だ。参謀役のローズは賢いが、子供だ。体力がない。知識が偏っていることも気になる」


王太子宮の近習は、何をどこまで知っているのかとレオンは恐ろしくなってきた。独り言として聞かせるにしても、アレキサンダーの立太子に、未だに反対している一派のことなど、おいそれと口に出して良いものではない。


「アーライル家がご協力申し上げる分には、何ら問題はないでしょう。傭兵だった高祖父が、家名なしの一族の女性を妻にもらい、当時侯爵家だったアーライル家に夫婦で養子となっています。ですので、本家のロバート様と、ロバート様がお仕えするアレキサンダー王太子殿下を裏切るようなことはいたしません」


エドガーに独り言として打ち明けてくれた代わりに、最近忘れられている一族の歴史をレオンは口にした。

「はぁぁぁ、今、なんて」

エドガーが、叫んだ。


「ですから、血筋で言えば、今のアーライル家は、家名なしの一族の本家であるロバート様からみれば、分家なんです」

「子爵家が分家、いや、もと侯爵家が分家って、ロバート、あいつ何なんだよ」


レオン自身も、父から初めて聞いたときには驚いた。

「よくわかりません。私も。一度、お会いしてみたいと思います」

「私も、ぜひ、あれだけの資料を作成された方に、お会いしたいです」

「全くその通りです」


三人の言葉にエドガーが咳払いをした。

「俺は独り言を言っただけだ。まぁ、誰かさんは反省して、ちゃんとやる気になっているらしいから、三人まとめてしごいてやれと言っておくがな」

「しごいてやれって」

マーティンの言葉にエドガーが笑った。


「あぁ。ローズは、ロバートに負けず劣らず手厳しいし、人使い荒いぞ。あぁ見えて賢いが、自分が賢いと言う自覚がない。おかげで王太子宮じゃぁ何人も、自信喪失だ」

そういうエドガーは、自身喪失などしなかったのだろう。


「可愛らしいお嬢さんに見えますが」

カールの言葉にエドガーは人の悪い笑みを浮かべた。


「御前会議にご出席されている方々を論破してもか。俺はその場にいなかったから、見てないが。宰相のリヴァルー伯爵も論破したというから、痛快だ」

近習らしからぬエドガーの発言と、ローズの武勇伝に三人は顔を見合わせた。


「そういえば、王太子様と怒鳴りあいをしたと」

そういったエリックは、あの子らしいなどと、とんでもないことを言っていた。

「あぁ、普通に話しても聞いてもらえないと思ったから、不敬罪覚悟だったと、ローズが自分で言っていたよ。ロバートが顔色をかえて、二度とするなと本気で説教したなぁ」


エドガーが小さく懐かしいと呟いた。

「ロバートは、能力がある人間が好きだ。ローズは、そんなロバートが、大事に可愛がってる妹みたいなもんだ。三人とも、ちゃんとローズにしごかれて、イサカでロバートに、後任として認められるように頑張れよ」

励ますようなエドガーの言葉だったが、三人は緊張しただけだった。


高祖父;曾祖父の父

アーライル子爵(レオン・アーライルの父親)にとっての、曾祖父のことです。


本日、10時ごろに一話更新します

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