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45)レオンとエドガー

 互いに十分距離をとり、一礼した。

「ありがとうございました」

どちらが勝ったということなく手合わせは終わった。

「恥ずかしい限りです」

レオン・アーライルは、頭を下げた。


「どうした」

先ほどまでレオンとの手合わせに興じていたエドガーが、座れというように、訓練場の粗末な長椅子を指していた。


「私はそれなりに強いと思っていたのですが」

「あぁ、俺も、俺は強いと思っていた」

並んで座った二人に、小姓が水と布を差し出してきた。


「お、お前も気が利くようになったなぁ」

「ありがとうございます」


 エドガーの言葉に、小姓が嬉しそうに笑った。エドガーの咳払いに、小姓が慌てて一礼するのが微笑ましい。エドガーは、口調は乱暴だが、面倒見は良い男のようだった。


「休憩したら、戻る。執務室か続きの間に、トビアス達がいるはずだから、用意するようにと言っといてくれないか。多分、それでわかるはずだ」

「かしこまりました」

小姓は一礼すると、訓練場を出て行った。


 レオンはエドガーに、有効な一撃を加えることができなかった。躱されてしまうのだ。レオンもエドガーからは有効な一打を浴びていない。結果、双方から引き分けにしようと申し出ることになった。


「相手を代えてもこの結果か。躱して打ち込んでも、きちんと打ててないってのがよくわかった。俺にとっては収穫だ。また頼めるか、坊主、あ、違った、悪い悪い、レオン様」

「いえ、いいです。私があなたに勝てるまで坊主で十分です。屋敷でも、大半に小僧って言われてますし」

「いや、それじゃお前、何年たっても俺に坊主っていわれ続けることになるから、やめておけ」

「そんなことにはなりませんから、ご安心を」

どちらからともなく笑った。


「なんで、そこでお二人は笑うんですか」

「マーティンさん、ですからこういうときは」

相変わらずのマーティンとカールに、レオンとエドガーは顔を見合わせてまた笑った。


「ところで、一つ聞いてもいいですか」

「なんだ」

「結局、私が派遣されることになった理由は、ローズさんがこの一件に果たしておられる役割を理解したからでよいですか」


レオンの質問にエドガーは考え込んだ。

「つい先ほどのことをいうならば、そうだろうな。レオン様が、ローズの話をまともに聞く気になったからだ。ローズが言ったとおり、イサカの町でロバートに協力しているのは平民だ。イサカの町に住む平民が、町を救ったんだよ。それもわからないような貴族がいったら、せっかくロバートが築き上げた信頼が破壊されてしまう。貴族の権威を鼻にかけるような奴は後任にできない」


「はい。そこまでは僕もわかります。反省しました」

「なんだ、そこまでちゃんとわかってたのか。いやぁ、俺はまた、貴族が頭を下げてやったんだから、許されて当然ってやつかと思ってた。悪かったな」


率直なエドガーの言葉にレオンは苦笑した。

「いえ、最初は、父の命令に背かないために、謝罪の言葉を並べただけでした。似たようなものです」

「なんだ、思った通りとまではいかないが、やっぱりか。随分と正直だな。そんなお前がなぜ、ローズの話を聞く気になったんだ」


 エドガーは、兄アランと似ていた。親族が家督相続について口を出し始め、レオンと兄アランとの関係が微妙になる前はよく、訓練のあとにいろいろな話をした。


「あの後、同年代の近習から話を聞きました。二人ともローズさんから教えてもらったと言いましたね。改めて、資料を見てみると、非常に有用な内容であることが、わかりました。自分が、思い込みでローズさんの話を真剣に聞いていなかったから、理解できていなかったことに気づき、反省しました」


 レオンは父に、戦場で、先入観で相手を判断するな。常に情報を集め、最善の方策を検討し全力で戦い、かつ、次の戦いに備えよと、教えられている。戦場以外でも、心がけるべきことだろう。

「なるほどな。実は、あのとき、ローズと俺はすぐ近くの部屋で、様子をみていたんだ。ローズは、レオン様が、近習の説明を真面目に聞いているのを見た。これではイサカに派遣できないからアレキサンダー様に相談をしにいった。俺は俺で、相手によって態度を変えるお前をみて、正直に言えば、腹が立った。小さなローズが、世話になったお前の親父や、わざわざ来てくれたアラン様の頼みだからって、お前のために一生懸命やってるのに、ふざけるなと思ったね。アーライル家の次男とはいえ、俺達よりは若い。一度鼻っ柱へし折ってやるかと思って、部屋に入った。ライティーザ王国総騎士団長アーライル子爵の息子と、手合わせしてみたかったのも事実だ。あとはまぁ、あんなに怒っているエリックは、久しぶりに見たな」


「いえ、そもそもは、私が撒いた種です」

資料を持ってきたとき、最初にローズは、その資料が何かをきちんと言っていた。既にその時点で、ローズの言葉に耳を傾ける気が無かったレオンが悪いのだ。


「え、あの方、怒ってらしたんですか」

「マーティンさん」

二人は相変わらずだった。


何やら仲良くなりつつある二人はさておき。レオンは何より、聞きたいことがあった。


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